中朝は自民の「援軍」か 立民、逆風の深淵

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Nikkei Online, 2021年11月11日 11:00更新

選挙における外交・安全保障政策は票にならないという通説が崩れつつある。

衆院選で負けた立憲民主党は枝野幸男氏が代表を辞任する。共産党との共闘が敗北の一因だ。共闘の何がマイナスに作用したのか。その深淵には中国と北朝鮮の存在がある。

東アジアの安全保障上のリスクは中国と北朝鮮である。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は任期を撤廃し、台湾との統一を公言する。国際法を無視して南シナ海に人工島を建設し、東シナ海の沖縄県尖閣諸島付近では挑発行動を続ける。尖閣諸島の魚釣島からわずか170キロメートルほどしか離れていない台湾での有事は、日本有事にほかならない。

衆院選の公示日に弾道ミサイル発射実験をした北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の蛮行も同様だ。国連安保理決議を平然と破る北朝鮮は国際的な孤立を深めており、その暴挙には日米安全保障条約に基づく同盟関係を中心に対処するしかない。

共産党が掲げる日米安保の廃棄と自衛隊の解消の政策は、東アジアの安保の実態と乖離(かいり)している。立民の外交・安保は日米安保が基軸だが、共産党の外交・安保の印象が重ね合わされ、支持を失った恐れがある。

選挙での外交・安保への認識の変化は米国の大統領選にもみえる。

伝統的には失業率など経済を含めた内政が当落を左右してきた。ベトナム戦争の是非や、イラン米大使館人質事件での失態なども選挙で取り上げられてきた。それでも投票行動は生活に直結する経済の要因が大きかった。

その経済に外交・安保が絡み合ったのが2008年の大統領選であり、16年の大統領選だ。08年はブッシュ(第43代)大統領が始めたアフガニスタンとイラクの2つの戦争に疲弊した経済に直前のリーマン・ショックが重なり、オバマ氏を黒人初の大統領に押し上げた。

16年はトランプ氏が中国との貿易赤字に批判の矛先を向けた。中国が軍事と経済の両面で急成長し、米国の覇権に公然と挑む姿勢もトランプ氏の対中国強硬論と共振した。

対中脅威論は20年大統領選でも影を落とした。中国と親和性があるといわれてきた民主党候補のバイデン氏も中国には毅然とした態度で臨まざるを得なかった。大統領に就任してからもそれを堅持している。

再び日本。中国や北朝鮮が蛮行を繰り返せば、繰り返すほど共産党と連携する立民の外交・安保への不安は増す。

それは自民党への間接的な「援軍」効果を生み、対中国、対北朝鮮強硬論に合理性を持たせる。

外交・安保で自民党と大きな隔たりがない野党、日本維新の会の躍進も、底流にはその安心感がある。

維新と国民民主党は立民や共産党、社民党との国会対策協議の場にはいない。反対のために実現性の乏しい政策を訴える旧来型の野党からの脱却をめざす。

枝野氏の後任を選ぶ代表選は共産党との共闘を続けるのか、見直すかが争点だ。

台湾有事は遠い国で起こり得る出来事ではない。立民が国家の根幹である外交・安保への不信を抱えたまま「表紙」を代えるだけなら、党再生の好機を自ら放棄することになる。

政治部長 吉野直也

政治記者として細川護熙首相から岸田文雄首相まで15人の首相を取材。財務省、経済産業省、金融庁など経済官庁も担当した。2012年4月から17年3月までワシントンに駐在し、12年と16年の米大統領選を現地で報じた。著書は「核なき世界の終着点 オバマ対日外交の深層」(16年日本経済新聞出版社)、「ワシントン緊急報告 アメリカ大乱」(17年日経BP)。