大坂なおみ(日清食品)がテニスの四大大会、全仏オープンを棄権、うつの症状に長らく悩まされていると告白した。女子テニスでは、若い10代の選手が彗星(すいせい)のごとく現れては燃え尽きてしまう問題が根深くあり、女子テニス協会(WTA)も対策をとってきた。
「うつとの格闘を打ち明けたのはとても勇気のいることだと思う。今、大切なのは彼女に時間、休息を与えること」。WTA創設者の一人で、大坂に折に触れてアドバイスをしてきたビリー・ジーン・キングさんは、大坂の発表を受けてコメントした。
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全仏は苦手意識のあるクレーコートで、前哨戦の2大会では1勝にとどまったことも影響したかもしれない。大坂は今後について、自身のツイッターで「少しの間コートを離れますが、時期が来たらツアーと協力して選手、報道機関、ファンにとって事態を改善するための方法を話し合いたい。また会いましょう」と記した。キングさんの指摘通り、まずは休息が必要なのだろう。
正直でウイットに富んだ大坂の記者会見は人気がある。一方、ベラルーシ選手に本国の政治情勢をきくといった手ごわい質問も日常茶飯事だ。大坂は「BLM(黒人の命も大事だ)」について発信して以降、ジェンダー問題など、少し返答を間違えると炎上しそうな質問を受けることも増えた。うまく答えているように見えて、心の葛藤はあったのだろう。
記者会見を拒否した大坂に処分を発表する際、四大大会主催者は連名で「選手のメンタルヘルスは最も重要な要素で、多大な努力をしてきた」と繰り返し強調したように、心の健康はテニスでは大きな問題だ。
1年のうち10カ月間、世界中を転戦し、試合中は誰とも話せず、個人競技だから負けたショックは1人にのしかかる。ツアーの先々でスーパースターは注目され、同じことを何度も聞かれる一方、下位の選手は生活費とツアーを回る資金に苦労し、八百長の問題もある。華麗なイメージとは裏腹に、テニスの世界はシビアで孤独だ。
現役時代、コーチを務めた母親と転戦していた杉山愛さんは「絶対に自分の味方でいてくれる存在がいるのは大きい」と話していた。ガールフレンドを帯同する男子選手が多いのは、そういった意味もあるとされる。
若くして頭角を現しやすい女子は、親の過干渉の問題も深刻だった。16歳で1992年バルセロナ五輪を制したジェニファー・カプリアティ(米国)はその後、ツアーを離れ、万引きやマリフアナの問題を起こした。WTAは94年、ツアー出場に年齢制限を設け、18歳になるまで出られる試合数を細かく規定。メンター制度、ツアーの回り方、メディアトレーニングのプログラムまで整備している。
その効果はあり、カプリアティは復活して四大大会で3勝した。最近でも、現在世界ランク1位のアシュリー・バーティ(オーストラリア)は10代のころ2年ほど離脱、地元のクリケットチームでプレーした後にツアーへ戻り、19年全仏を制した。
「今、なおみを抱きしめてあげたい。彼女の立場がよく分かるから。人はそれぞれ違う。なおみがいいと思うやり方で今の状況に対処させてあげないと。彼女はベストを尽くしていると思う」。大坂の棄権を聞いたセリーナ・ウィリアムズ(米国)はこうねぎらった。
(原真子)