原発安全費、想定の3倍超す 関電・九電1兆円規模

エネルギー政策に影響も

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稼働中の関西電力の高浜原発の3号機(左)と4号機は
テロ対策が喫緊の課題となっている(福井県高浜町)

原子力発電所の安全対策費が電力会社の想定を上回り、各社に対策を迫っている。厳しい安全基準が導入された2013年時点から国の原子力規制委員会が求める対策が追加され、各社の対策投資は軒並み増えた。最も多い関西電力は1兆円規模に達する。事故の備えとしての安全対策費が増えれば、原子力を発電コストの低い安定電源と位置づけてきたエネルギー政策に影響を与える可能性がある。

政府が15年に明らかにした30年時点の発電コストは原発が1キロワット時あたり10.3円以上と、石炭火力(同12.9円)、太陽光(同12.5~16.4円)に比べ安い。一方、新規の原発1基あたりの安全対策費が1000億円増えるとコストが1円高くなる。

海外では太陽光や風力の発電コストが10円を割り込む事例が増え、一部の地域では原発のコスト競争力が揺らいでいる。電力各社が原発の安全対策に投じる費用は結果的に電気料金に上乗せされ、利用者の負担になることも想定される。

日本経済新聞社が沖縄を除く大手9電力に、日本原子力発電と原発の建設計画があるJパワーを加えた11社に聞き取りしたところ、今年6月末時点で対策の総額は約4兆8千億円だった。

東京電力福島第1原発の事故を受け、6年前の13年7月8日、安全対策を巡り世界で最も厳しいとされる基準が導入された。13年1月時点で各社が想定していた費用は総額約9千億円で、6年あまりで4兆円弱増えた。

13年以降は、規制委の安全審査の過程で地震の揺れや津波の高さの想定値を高くするよう求められ、配管の耐震補強などが生じた。テロ対策施設の対策が追加。規制委はテロリストによる航空機の衝突などに備え、遠隔操作で原子炉を冷やす設備の設置が求められた。

原発依存度が高い関電は、13年時点の見込みと比べ3.6倍の約1兆250億円になった。テロ対策施設の完成が遅れると表明しており、安全対策費の増加を懸念する声がある。関電は工期短縮策を探るものの「工法等で対策を見いだせたとしてもコストが膨らみ収益を圧迫する可能性がある」(関電幹部)という。

九州電力は川内原発(鹿児島県)と玄海原発(佐賀県)でのテロ対策施設の建設に約4600億円を見込み、対策費は13年時点の4倍超の9千数百億円に拡大した。

8日には規制委が「未知の活断層」への対策強化を全国の原発に促す報告書案をまとめた。九電は玄海、川内両原発の周辺に目立った活断層がなく、新たな対応が必要との見方が出ている。九電は「耐震性に余裕を持った施設と評価している」とするが、規制委によって想定より揺れが大きくなり建物が耐えられないと判断されると追加工事で対策費が増える。

中部電力に対しては、規制委が内閣府が示した南海トラフ地震の影響を厳しく見積もるよう求めた結果、中部電が建設した22メートルの防潮堤を上回る22.5メートルの津波が来る試算値となった。中部電は想定見直しに慎重だが、規制委から求められれば防潮堤の追加工事が必要になる。

テロ対策施設は工事認可から5年以内とする期限に完成が間に合わなければ、稼働の停止を迫られる。福島第1原発の事故後、原発は運転できる期間が最長でも60年となった。事故前に動いていた原発も安全対策や地元との調整に時間がかかれば、低コストで発電できるとする電力大手の収益改善が進まない。

17年度の電源構成に占める原子力の比率は3.1%だった。政府のエネルギー基本計画では30年時点でこの比率を20~22%としている。電力会社も収益改善と、電気料金の引き下げになるとして原発再稼働を進めたい考えだ。関電は再稼働後に料金を引き下げたが、対策費が膨らむと前提が変わる可能性がある。

政府は稼働年数が限られる既設の原発の対策費のコストに与える試算を出していないが、一般には採算性が下がり「発電コストが高くなる」(経済産業省関係者)。再生可能エネルギーなどとのコスト比較の議論にも影響しそうだ。株式市場では原発のコスト増などを懸念する機関投資家も出始めている。