北海に送電の島構想 周辺6カ国で電力安定化

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 北海道地震で起きたブラックアウトで、安定した電力網の重要性が再認識された。こうしたなか、欧州では安定性を高めようと北海のど真ん中に「送電ハブ」となる島をつくる計画が進んでいる。人工島を中継点に、周辺の洋上風力発電所が生み出す大量の電力を周辺国で融通しあおうというのだ。2019年中に各国政府の賛同を得て、35年までの稼働を目指す。

北海の真ん中で建設構想が進む電力ハブ人工島の完成イメージ。港湾設備や飛行場も備える

 「北海風力ハブ構想」。オランダとドイツ、ベルギー、英国、デンマーク、ノルウェーの北海沿岸6カ国からそれぞれ約200キロメートルの海域に4つ前後の人工島を建設し、1つの人工島にそれぞれ東京タワー級の巨大風車2000~3000本がつながる。50年までに原発100基前後に相当する70~150ギガワットの風力発電の電力を約1億人に供給する。各国のそのときどきの電力需要に応じて柔軟にその送り先を変えることで、現状では不安定な再生可能エネルギー主体でも欧州の電力網が安定することを目指す。

■ オランダ・デンマークの送電会社が提唱

 提唱したのはオランダの送電大手テネットとデンマークの同業エネルギーネット・デンマークだ。壮大だが荒唐無稽に聞こえるこのアイデアは実現可能なのか、テネットで同プロジェクトを含む洋上風力を担当するヴィルフリート・ブロイアー取締役を訪ねた。

オランダ送電大手テネットの
ヴィルフリート・ブロイアー取締役

 ブロイアー氏は「北海風力ハブはビジョンではあるが、本気で実現しようとしている。パリ協定の目標を達成するために重要な役割を果たす」と大まじめだ。平均気温上昇を産業革命前と比べて2度未満とするパリ協定の目標を達成するには50年までに北海では180ギガワットの風力発電が必要になるとみる。17年時点でドイツの北海での出力はわずか4.6ギガワット、オランダは23年でようやく4.5ギガワットだ。人工島は北海で風力発電を急拡大させるための重要なインフラになるという。

 説明を聞くと確かに理にかなっている。まず、年間を通じて強い風が吹く北海の真ん中に建設する。このため、陸地の近くに洋上風力発電所をつくるよりも設備の利用率を高められる。

 次に国際連系線としての役割だ。国際連系線とは国をまたいで電力を融通する送電線のこと。たとえば風力が主力のデンマークで風がない日にドイツから火力発電の電力を買ったり、スウェーデンから水力発電の電力を買ったりして、電力網を安定させる。今回のプロジェクトでは2カ国間の連系線ではなくハブを設けることで、多国間で最も電力を必要とする国に電力を送ることができる。裏を返せば最も高く買ってくれるところに電力を回せるので投資の回収も早くなる。

 3つ目に、1つのハブ島は少なくとも3~5カ国とつながるため、1つの送電系統が故障してもほとんどの発電機は稼働し続けることができる。既存の洋上風力発電所は1つの送電系統が故障すると、無用の長物となってしまう。

 気になるのはコストだ。ブロイアー氏は、将来予測によって幅があると言及を避けた。だが「既存の洋上風力発電所よりも建設から廃止までの総コストは1~2割安くなる」と話す。人工島に一旦集約してから各国へ送電するため、個別に送電のための設備を設置するよりもコストを抑えられる。個別に陸地と結ぶ場合の送電設備の利用率は40%程度だが、ハブを介せば100%近くまで高まるという。

■ 2028年着工目指す

 人工島は保守部品を備蓄する保守・整備拠点としても使える。さらに、水を電気で分解して水素を作る設備を島に設置することで、余った電気はガスとして貯蔵したり陸へ送ったりする考えだ。ブロイアー氏は「風車や電力変換システム、ケーブル、島の建設などは既存の技術ですでに実現可能だ。構想実現に必要なのは沿岸国でインフラ費用をどう負担するかという政治的な合意だ」と話す。

 17年3月にテネットの独法人を含む3社でスタートしたこのプロジェクトは現在、ロッテルダム港などが加わり5社でコンソーシアムを形成する。欧州委員会もプロジェクトを支援する。現在各国政府やほかの送電事業者などに精力的に働きかけている。19年に政府から支援を得られれば、法制化や詳細設計に着手し、28年に建設着工という流れを目指す。

 17年に欧州28カ国の太陽光・風力・バイオマスのいわゆる「新・再生エネルギー」の発電量が初めて石炭火力を超えた。水力を含めると発電に占める再エネのシェアは30%に達する。テネット前最高経営責任者(CEO)のメル・クローン氏はハブ構想について「再エネ100%も可能になる」と期待をかけた。実現するかは未知数だが、欧州が再エネ普及と電力網の安定の両立に本気で取り組んでいる。