動かぬ原発、老朽火力頼み 思考停止が大規模停電招く

エネルギー日本の選択 北海道地震が問う危機(上)

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 6日午前3時すぎ、緊急地震速報のアラームがなった。「震源は苫東厚真火力発電所に近い」。この情報に北海道電力の社員は身構えた。今の北海道電にとって苫東厚真の役割が重いことを知っていたからだ。

苫東厚真発電所の停止が大規模停電を引き起こした
(北海道電力提供)

 北海道全域で295万戸が停電するブラックアウト。最大の原因は発電能力の過度な集中だった。電力供給の約半分を出力165万キロワットの苫東厚真火力が一手に背負う。砂上の楼閣のようなアンバランスがなぜ放置されていたのか。

 「泊原発が最優先だった」。電力関係者は指摘する。207万キロワットの出力をもちながら停止中の泊原発が再稼働すれば供給が安定するのは確か。問題は安全審査の通過が見通せず再稼働時期がまったくわからないのに、現実を直視した対策を打たなかったことだ。

 北海道電は18年3月期までの5年間で発電所に3738億円を投資したが、約5割の1887億円は泊原発にあてた。再稼働に向けた工事を優先し、他の発電所への投資は後回しになった。当然、全体の電源バランスの改善は進まない。

 投資が偏ればコストにも跳ね返る。新設がないと効率の悪い老朽設備を動かさざるを得ない。北海道電の料金は全国で最も高い水準になり顧客は新電力に流出。収益が悪化し投資余力が落ちる悪循環に陥った。

 東日本大震災後に原発が停止し、電力供給の将来像が描けない。思考停止が危機を招くリスクは北海道地震でもろくも露呈した。「大きな離島のようなもの」。他の電力大手からは北海道は特殊との声もあがるが決して他人事ではない。

 国内の電源構成は原子力の割合が東日本大震災前の3割弱からほぼゼロになった。その代わり火力発電が6割から8割強となって依存度が上がった。しかも火力は東京電力では東京湾、中部電力では伊勢湾周辺などに集中している。

 老朽化も深刻だ。電力大手の火力の運転年数は平均30年。「老朽」とされる40年以上の割合は23%に達する。南海トラフ地震など大災害のリスクが潜むなか北海道電以外も非常時に停電を防げる保証はない。

 国のエネルギー基本計画は30年に原子力で電源の20~22%をまかなうとする。このために約30基の稼働が必要だが、現状は9基のみ。原発が運転可能な期間は最長60年で、新設がないと70年には原発がゼロになる。冷静に現状を踏まえなければ、いたずらに火力に依存する構図が続きかねない。

 計画では太陽光や風力といった再生可能エネルギーを主力電源としていくことも盛り込まれた。だが北海道で豊富にある再生エネを生かせなかった現実をみると将来は心もとない。

 欧州には網の目のように各国を結ぶ送電網が整備され、電力を融通し合う仕組みが機能する。大手電力が地域の送電網を独占してきた日本では送れる電力量が限られる。再生エネの普及に向けた大きな壁だ。

 原発はいつ、何基を再稼働できるかわからない。頼みの火力発電も老朽化で停止リスクを抱え、特に石炭火力は世界的な地球温暖化対策の流れのなか新設も難しい。早急に思考停止を脱し、災害にも強い電力システムの将来像を固めなければ、日本のエネルギー危機は回避できない。