三菱重工が水素製鉄設備 CO2排出ゼロ、
21年に欧州で

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Nikkei Online, 2020年12月28日 2:00


オーストリアの製鉄所に導入する水素還元製鉄設備のイメージ

三菱重工業は石炭の代わりに水素を利用して鉄をつくる設備を欧州に建設する。二酸化炭素の排出を実質ゼロにする製鉄設備としては世界最大級となる実証プラントをオーストリアの鉄鋼大手と開発し、2021年にも稼働を始める。温暖化対策を成長戦略に据える欧州は水素製鉄の実用化を急いでいる。次世代環境技術の開発競争が激しくなってきた。

国際エネルギー機関(IEA)によると鉄鋼業界のCO2排出量は18年に約20億トンと00年の2倍に膨らんでいる。全産業に占める割合も、25%と同期間で5ポイント上昇した。従来の鉄をつくる一般的な工程では鉄鉱石を石炭由来の原料で還元するため大量のCO2を排出する。

鉄鋼の製造工程でCO2を大幅に削減するには、水素製鉄法が切り札的な手段だ。三菱重は製鉄設備世界3位。100%出資する英国の製鉄設備会社を通じてオーストリアの鉄鋼大手、フェスト・アルピーネの製鉄所で水素製鉄の実証プラントを建設中。21年にも試運転を始める。

鉄鉱石を水素で直接還元するDRIと呼ばれる手法を使うプラントで、年間25万トンの鉄鋼を生産する。稼働すれば水素を使った製鉄プラントしては世界最大となる。

日本製鉄など国内の鉄鋼メーカーが開発を進める水素製鉄は高炉をべースにしている。高炉の製鉄所新設には兆円単位の投資が必要だ。DRIは高炉に比べ生産量は少ないものの、投資額は半分以下で済むとされる。

従来の製法と同レベルの価格競争力の実現には、安価な水素が必要だ。経済産業省の試算では現在、水素の流通価格は1N立方メートル(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)あたり100円程度だ。

日本政府は大量生産などで30年に同30円を目標としている。ただ製鉄での実用化には「10円を切るレベルにする必要がある」(鉄鋼大手幹部)。安い水素を大量に供給する技術が求められる。

水素製鉄法を巡っては製鉄設備1位の独SMSや同2位のイタリアのダニエリなども事業展開を急ぐ。欧州鉄鋼メーカーも、アルセロール・ミタルが21年にドイツで水素製鉄の実証プラントを建設する計画を打ち出す。ドイツのティッセン・クルップやザルツギッターなども水素DRIへの投資を急ぐ。

三菱重は水素の調達網も確立する。10月に水素製造装置を手がけるノルウェー企業に出資した。オーストラリアなどでは、水素を製造する現地企業に相次ぎ出資を決めている。グループで水素の供給から設備の建設、エンジニアリングまで一貫で手掛ける。

欧州連合(EU)は7月、50年までに4700億ユーロ(約59兆円)を投じる水素戦略を発表。水素製鉄プラントの建設支援も期待できる。欧州では水素関連企業の集積も進んでいる。主力の火力発電設備事業の成長鈍化が懸念されるなか、三菱重は鉄鋼業界の水素シフトの需要取り込みを狙う。