「排出ゼロ、日本が旗振り役に」
メアリー・ロビンソン氏

第4の革命カーボンゼロ 元アイルランド大統領

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Nikkei Online, 2021年1月1日 1:12


政治家は「これで気候変動問題は解決した」
と安心してはいけないと語るロビンソン氏

最近、各国政府が相次ぎ二酸化炭素(CO2)の排出を「実質ゼロ」にすると表明した。気候変動対策に勢いを与えている。2021年の早い時期に世界経済の約70%がゼロ目標を掲げることになるだろう。

政治家は「これで気候変動問題は解決した」と安心してはいけない。長期目標は重要だが、十分ではない。ネットゼロ達成の軌道に乗るには、緊急に対策を進める必要がある。そしてすべての人、国家、都市、金融機関や企業が参加する必要がある。

日本は気候変動対策のリーダーとして誇るべき歴史を持つ。この10年、その決意は弱まっていたが、かつての開拓者精神を取り戻している。若者や企業による気候変動対策への決意も注目される。日本は京都議定書時代のスピリットを取り戻し、気候危機に対し、世界を主導する役割をもう一度担うべきだ。30年の削減目標を大幅に強化し、発展途上国を支援すべきだ。

京都議定書は気候変動に関する国際協力の重要なマイルストーンだった。先進国だけに義務を課し、その後、複数の国が離脱したのは残念だったが、法的な拘束力を持たせたのは大きな成果だった。

パリ協定はすべての国が参加するよくできた仕組みだが、合意から5年、各国が温暖化ガス削減目標を積み上げる最初の期限を迎え、いま、協定の有用性が試されている。

新型コロナウイルスに世界の注目が集まった20年も、気候変動は世界の最も弱い立場の人々に凄惨な影響を与え続けた。気候変動の責任を負っているのは先進国と富裕層だが、その影響に最も苦しむのは最も貧しい人々だ。

アジアや中米ではサイクロンや嵐に拍車がかかり、アフリカではバッタの大群が農作物を荒らした。オーストラリアや米国では前例のない熱波や山火事が起きた。これらは約1℃の温暖化による影響だ。海面上昇とスーパー・ストームの組み合わせは、何百万もの人々が低地の沿岸地域に住む日本にも影響するだろう。

菅義偉首相が50年までの炭素の実質ゼロを表明したのには勇気づけられた。大胆で先見性のあるリーダーシップを見せた。年末に開く第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)までに、新しい30年の温暖化ガス削減目標を提示するという。この新目標は日本のエネルギー政策に反映されなければならない。

日本には脱炭素型の経済や社会により早く移行できるように、政府に政策の実施を求める企業や地方自治体、市民社会がある。経済産業省は既存の関係者だけでなく、こうした声にも耳を傾けて政策を立案することだろう。変化は石炭火力発電の依存と促進をやめてこそ起きる。

コロナは国の役割や協力の大切さ、さらに科学の声を聞く重要性を再認識させた。私たちはコロナ禍を克服し、これらの教訓を踏まえ、より力強い立場で気候危機に取り組めるといい。

菅首相が話す通り、「気候変動対策は経済成長への障害ではなく、経済成長への原動力になる」。国際エネルギー機関(IEA)もグリーンリカバリーへの投資が雇用や経済にもよいことを明らかにしている。変化を起こすチャンスといっていいだろう。

(書面インタビュー)

Mary Robinson 1990年から97年までアイルランド大統領。97年から2002年まで国連人権高等弁務官。その後、国連の気候変動特使を務めるなど、地球温暖化、人権問題に積極的に関わっている。