進化の道変えた原発 小型炉に浮かぶ「現実解」

第4の革命 カーボンゼロ(5)

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Nikkei Online, 2021年1月6日 5:05更新


ニュースケール社が計画する小型原発の完成イメージ。
原子炉は地下に格納する

新政権発足後、即座にパリ協定に復帰すると宣言した米国のバイデン次期大統領。2兆ドル(206兆円)を投じる気候変動対策には原子力発電所の活用も盛り込む。力点を置くのが、安全性が高いとされる小型原子炉の開発だ。

米国では2007年創業のスタートアップ、ニュースケール・パワーが脚光を浴びる。標準的な炉は100万キロワット級だが、同社が扱うのは数万キロワット。外観のイメージ図に原発特有の巨大な建屋や冷却塔はなく、体育館のような施設が並ぶ。

配管が複雑に絡み合うこれまでの原発の雰囲気はない。数万キロワット級の原子炉を5~6本まとめてプールに沈め、発電する。水につかっているから事故で電源を喪失しても炉心を冷やしやすい。核のごみの発生も今までより少なく抑えられる。

昨年夏には12の炉で米原子力規制委員会の設計審査を終えた。「原子炉の大きさもコストもお客様の相談に乗ります」。1基の規模は小さくとも、複数の炉を連結すればより大きな電力を生み出せる。同社は政府機関や企業などにオーダーメードで原発を提供する。設置を拒む地域もあるが、万一事故を起こしても影響を受けるエリアが狭く、送電網がない地域でも設置できる利点を強調する。

ロシアでは海に浮かべた小型の原発が威力を発揮する。国営企業のロスアトムが「原子力砕氷船」に積んでいた小型炉を浮体式の海上原発に転換。海上の利を生かし、電力網の脆弱な発展途上国などに展開する。

原発は一大消費地の電力をまかなえるよう、出力を大きくして効率的に供給する方向に進化してきた。大きくなると複雑で制御しにくい。いま、原発は必要なだけの電力を安全に供給する小型化を探る。

米ロが原発の技術を磨くのは再生可能エネルギーをフル活用しても、電源に占める割合は5~6割にとどまるとの認識が広がっているからだ。水力で9割をまかなえるノルウェーのような国は別格。50年目標は英国で65%、米国で55%とされている。欧州では脱石炭という要請もあり、二酸化炭素(CO2)の排出がない原子力に自然と目が行く。

日本も似た状況にある。再生エネには50~60%しか頼れず、残りの穴埋めが課題だが、立ち位置は曖昧だ。政府が昨年末にまとめたグリーン成長戦略では、原発単独でどこまで手当てするか明確にしなかった。50年時点の電源構成は「原子力と火力で合計30~40%程度」。既存原発の再稼働もままならず、新増設も封印する現状を映す。

では火力に頼れるかというと、心もとない。東日本大震災後、原発がゼロになるなか、石炭火力を電源全体の3割まで高めたが、カーボンゼロ実現には脱却は待ったなし。クリーンな電源として使い続けるにはCO2の排出抑制策が必要になる。

政府は火力で生じるCO2を回収・貯留するCCSを進める。代表的な地中貯留の技術は1トンあたり約7千円かかる。現在の石炭火力の発電コストは1キロワット時12.3円だが、CCSの費用が乗ると最大19円程度に跳ね上がる。10.1円の原発との差はさらに広がり、商業利用には相当なコストダウンが求められる。

日本は欧州と比べると再生エネの利用で地理的な制約を受けやすい。山が多く、洋上風力に適した海域は狭い。経済性を考えるともうひとつの安定電源を頭に入れておく必要がある。原発は福島での事故から足踏みが続いたが、カーボンゼロに向けてもう思考停止は許されない。使用済み核燃料の問題も含め、今後とるべき道について合意を探るときだ。


「原発、30年に2割が妥当」橘川武郎・国際大教授


焦点になるのはゼロエミッション火力発電だ
と語る橘川氏(2019年5月撮影)

政府が2020年10月26日に「50年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」と宣言したのは大きなゲームチェンジだった。

米大統領選挙でバイデン氏が勝利し、世界で脱炭素の流れが本格的に勢いを増す直前、滑り込みセーフで新目標を打ち出せた。バイデン氏の勝利後に言い出したのでは国際的な笑いものになっていただろう。

電源は再生可能エネルギーを主軸に、火力と原子力を組み合わせる構成が続くだろう。

焦点になるのはゼロエミッション火力発電だ。東京電力ホールディングス中部電力が折半出資するJERAは化石燃料にアンモニアや水素を混ぜて燃やす手法などで、事業活動での二酸化炭素(CO2)排出量を50年に実質ゼロにする目標を発表した。

最終的にはアンモニアや水素だけを燃やし、火力発電でありながらCO2を出さない状態にまでもっていく将来像を示している。この仕組みが可能だと示されたことで「50年ゼロ」への道筋が見えてきた。
政府はグリーン成長戦略で50年時点の電源構成に占める再生エネの比率を50~60%とする目安を示したが、現実的な数字だと思う。

気になるのは、CO2の回収機能を付けた化石燃料による火力と原発を合わせて30~40%とした点だ。残る10%分は水素とアンモニアを使うとしているが、要するにこれも火力発電。火力はひとくくりにし、原発は単独で目安を示すのが本来の筋のはずだ。

政府は原発を推進する気がないのではないか。発電所の新増設の議論も封印したままだ。政治家や地元との調整もあって「原発をやめる」と宣言するほどの勇気もない。そんな思惑が絡んで、原発単独で低い目安が表に出ることを避けたと考えるのが自然だろう。

再生エネ普及は送電網の整備がカギを握っている。発送電分離が始まって以降、稼働しない原発のために送電網の枠をとっておくのではなく、可能な限り再生エネに使うことで利用率を上げようとするのは経営の観点から合理的だ。

再生エネでつくった電力を固定価格で国が買い取るFIT制度で事業者の裾野は大きく広がった。だが、今や玉石混交。再生エネの持続可能な利用環境を整えるには、設備や機器のメンテナンスがこれまで以上に重要になる。必然的に優良事業者に再編・集約していくことになるだろう。

再生エネ比率を50%に高めるには、排出量に応じて企業が費用負担するカーボンプライシング(炭素の価格付け)が欠かせない。企業が排出削減するほどメリットが生まれるため、本格的に商業利用されていない水素やアンモニア、CO2の回収・貯留(CCS)の技術革新や普及への後押しとなる。

政府は50年時点で原発単独の将来像を示さなかったが、この考え方は30年時点の次期エネルギー基本計画と電源構成を示す際に反映されるだろう。再生エネの比率を現在の22~24%から30%に上げ、逆に石炭は26%から20%まで下げる。原発は20~22%で維持し、あとは液化天然ガス(LNG)とわずかな石油でカバーするのが現実的だろう。
(聞き手は杉原淳一)

きっかわ・たけお

 1951年生まれ。東大経済学博士。専門は日本経営史・エネルギー産業論。電力・ガス、石油産業の歴史や経営に詳しい。政府の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員として、次期エネルギー基本計画の策定に携わる。