新車すべてCO2ゼロ 「灰色のEV」克服、総力戦

第4の革命・カーボンゼロ 大電化時代(3)

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Nikkei Online, 2021年3月3日 0:00



充電ステーションが多いことも普及を後押しする
(ノルウェーの首都オスロ)=ノルウェーEV協会提供

「月400ドル(約4万2000円)もの通行料などが大きく減った」。ノルウェーの大手水産会社で働くマーティン・ストレビョさんはガソリン車から乗り換えたテスラの電気自動車(EV)「モデル3」に満足する。「デザインがいいし、航続距離も500キロで安心して運転できる」。往復20キロの通勤で乗るが夏なら充電は週1回で済む。

ノルウェーは2025年までに二酸化炭素(CO2)を排出しないEVや燃料電池車(FCV)の新車しか売れなくなる。すでにガソリン車は道路の通行料や駐車料金が割高だ。20年の新車の54%はEVだった。

欧州ではドイツ、フランス、英国を合計した新車販売に占めるEVの比率は20年に7%と19年の2%から急上昇した。20年12月単月では3カ国とも10%を超えた。

国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の乗用車やトラックが出すCO2は18年に60億トンと全体の18%。カーボンゼロにクルマの電化は欠かせない。世界の車メーカーも動き始めた。

米ゼネラル・モーターズは35年までに全乗用車をEVやFCVにする目標。英ジャガー・ランドローバーも36年までにガソリン車やハイブリッド車(HV)の販売をやめる。調査会社ライスタッド・エナジーのヤラン・ライスタッド氏は「50年のEV保有台数の予測を15億台から18億台に上方修正した」と話す。

もっとも、EVは排出ガスこそないが、基幹部品の蓄電池の材料であるリチウムの採掘や精製で大量のCO2を出し、生産段階のCO2排出量はガソリン車の2倍との試算がある。化石燃料由来の電気で充電すれば社会全体のCO2は減らない。劣化すれば「CO2の塊」である蓄電池を換える必要もある。

日本は電源に占める火力発電の比率が世界でも高い。東京都立大学の金村聖志教授は「生産、走行、廃棄まで考えると、日本ではEVよりHVのほうがCO2排出量が少ない」と指摘する。

「EV=地球に優しい」という時代は終わった。水素で走るFCVも含め全体のCO2排出をどう減らすか。「灰色のEV」を「緑」に変える競争は始まったばかりだ。

「脱炭素の部品や素材だけが工場の門をくぐれる」。独ダイムラーは高級車メルセデス・ベンツの工場を22年からカーボンゼロにするだけではない。取引先にも39年までに脱炭素の部品や素材を納入するよう求めた。

日本の車部品メーカー首脳は「25年にも米アップルの車が登場する」とみる。アップルは取引先から調達する部品や素材も含め、30年までに脱炭素を実現する方針を発表ずみ。EVも同様の調達方針をとるとみられる。

欧州連合(EU)は生産、走行、廃棄までの全体でCO2排出量を評価する新規制を議論している。いわば車の「一生涯」でのカーボンゼロが求められる。走行時の排出量などを評価する現行規制からの転換となり、本当にクリーンかどうかでEVも選別される。

日本で生産する車の半分は海外に輸出される。世界の潮流は国内産業の屋台骨をも揺らす。日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は20年12月、「50年のカーボンゼロに貢献するため全力で挑戦する」と話した。国にも電源を化石燃料に依存するエネルギー政策の抜本的な見直しや欧州や米国、中国と見劣りしない政策や財政での支援を求めた。

裾野が広い車産業で電気や素材まで遡って脱炭素を迫られれば、車メーカーだけでは手に負えない。いかに再生可能エネルギーを普及させ、製造業全体の脱炭素を底上げし、充電設備などインフラを整備するか。日本の基幹産業が投げかける問いに答えを出すときだ。