天皇陛下「象徴としてのつとめを果たす」

2000人参列し「即位礼正殿の儀」

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© 毎日新聞 「高御座」に立ち、「即位礼正殿の儀」に臨まれる天皇陛下。
奥は「御帳台」に立たれる皇后さま=皇居・宮殿「松の間」で
2019年10月22日午後1時14分(代表撮影)

 天皇陛下が即位を国内外に宣言される「即位礼正殿(せいでん)の儀」が22日午後1時ごろから、皇居・宮殿「松の間」で執り行われた。陛下は高御座(たかみくら)に登壇し、「憲法にのっとり、日本国及び日本国民統合の象徴としてのつとめを果たすことを誓います」と述べられた。一連の即位儀式の中心となる国事行為の儀式で、180以上の国と国際機関などの代表者や三権の長、各界の代表ら約2000人が参列した。夜には宮殿で海外の賓客らを招いた祝宴「饗宴(きょうえん)の儀」が催される。

 正殿の儀で、陛下は天皇専用の装束「黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)」をまとい、皇后雅子さまは、側頭部のびんを大きく膨らませたおすべらかしの髪に十二単(ひとえ)姿で御帳台(みちょうだい)に立った。

 陛下は冒頭、「さきに、日本国憲法及び皇室典範特例法の定めるところにより皇位を継承いたしました」と上皇さまの退位によって即位した経緯を述べた。そのうえで「国民の幸せと世界の平和を常に願い、国民に寄り添う」と誓い、即位した5月1日の「即位後朝見の儀」で国民に向けて述べた内容を改めて表明した。

 続いて、安倍晋三首相が高御座の前で「一同こぞって心からおよろこび申し上げます」と祝辞にあたる寿詞(よごと)を読み上げた。首相が数歩下がって「ご即位を祝し、天皇陛下万歳」と発声したのに続いて参列者が万歳を三唱した。両陛下が退室し、儀式は約30分で終了した。

 成人男女の皇族方も松の間に参列し、秋篠宮さまは赤みを帯びた黄色の束帯「黄丹袍(おうにのほう)」を着用し、女性皇族は十二単姿で並んだ。公務から退いた上皇ご夫妻と96歳の三笠宮妃百合子さまは出席しなかった。

 松の間正面の中庭には、安倍首相が揮毫(きごう)した「万歳旛(ばん)」など色とりどりの旛(のぼり)が立てられた。宮内庁職員らも装束姿で整列する予定だったが、雨天のため人数を減らして建物内に並んだ。海外や国内各界の代表は、中庭を取り囲んだ春秋の間などで儀式に立ち会い、設置された30台のモニターで進行を見つめた。

 儀式では、皇位の証しとされる三種の神器のうち、剣と璽(じ)(まが玉)、天皇の国事行為に使う印章の国璽(こくじ)と御璽(ぎょじ)が高御座に置かれた。神話に基づく調度品の使用や天皇が首相を見下ろす形になることには、憲法が定める国民主権や政教分離の原則に反しているとの指摘があるが、政府は平成の即位礼を踏襲した。

 正殿の儀に先立ち、両陛下は午前9時ごろから皇居内の宮中三殿で、即位の礼を行うことを皇室の祖先らに報告する「即位礼当日賢所(かしこどころ)大前(おおまえ)の儀」などの皇室行事に臨んだ。午後に予定されていたパレード「祝賀御列(おんれつ)の儀」は台風19号の被害に配慮し、11月10日に延期されている。

 平成の即位の礼は、昭和天皇の服喪期間を挟んで即位から約1年10カ月後に行われたが、202年ぶりの退位によって即位から約半年で儀式の日を迎えた。22日は今年に限り、祝日となった。

【高島博之、和田武士、稲垣衆史】


天皇陛下のお言葉 即位礼正殿の儀

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即位礼正殿の儀で、お言葉を述べられる天皇陛下=AP

22日の即位礼正殿の儀で、天皇陛下が述べられたお言葉は次の通り。

さきに、日本国憲法及び皇室典範特例法の定めるところにより皇位を継承いたしました。 ここに「即位礼正殿の儀」を行い、即位を内外に宣明いたします。

上皇陛下が30年以上にわたる御在位の間、常に国民の幸せと世界の平和を願われ、いかなる時も国民と苦楽を共にされながら、その御(み)心を御自身のお姿でお示しになってきたことに、改めて深く思いを致し、ここに、国民の幸せと世界の平和を常に願い、国民に寄り添いながら、憲法にのっとり、日本国及び日本国民統合の象徴としてのつとめを果たすことを誓います。

国民の叡智(えいち)とたゆみない努力によって、我が国が一層の発展を遂げ、国際社会の友好と平和、人類の福祉と繁栄に寄与することを切に希望いたします。


令和の天皇像にじむ 国民と共に、世界に目線

平成からの継承決意

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「賢所大前の儀」を終えた天皇陛下(22日、皇居・賢所)=代表撮影

「象徴としてのつとめを果たす」。22日、即位礼正殿(せいでん)の儀に臨んだ天皇陛下はお言葉の中で、上皇さまが確立した象徴天皇の在り方を継承する強い決意を示された。世界の平和を願い、国民に寄り添う。即位から5カ月余りを経て、陛下が目指される令和の天皇像が少しずつ浮かび上がってきている。

上皇さまは30年以上にわたる在位中、戦没者の慰霊の旅や被災地訪問などを通じて、象徴天皇像を模索し、築き上げられた。陛下はその歩みについて「常に国民の幸せと世界の平和を願われ、いかなる時も国民と苦楽を共にされながら、その御心を御自身のお姿でお示しになってきた」と改めて敬意を示された。

自身の決意としても「国民の幸せと世界の平和を常に願い」と同じ言葉を重ねて使い、「心を姿で示す」という平成の象徴像を継承する決意の言葉を述べられた。

5月1日の即位当日、即位後朝見の儀で国民の代表者らを前に述べられたお言葉とも共通点が多く、天皇としての歩みを始めたばかりの陛下にとって、上皇さまの存在がいかに大きいかが伝わってくる。

■ 寄り添う姿勢

お言葉の内容はおおむね29年前に上皇さまが即位礼で述べたお言葉を踏襲するものだったが、陛下は「象徴としてのつとめを果たす」との誓いの前に「国民に寄り添いながら」との文言を加えられた。「つとめ」の中で大切な姿勢と考えられていることがうかがえる。

側近らは公務などの際に見られる天皇、皇后両陛下の最近の特徴として、未来を担う子どもや若者に注ぐ温かい視線を挙げる。ある側近は「陛下は若者に言及する部分で特に時間を割いて文言を推敲(すいこう)されている」と明かす。

両陛下は6月、初の地方訪問で訪れた療育施設で、脳性まひを患う8歳の女児に「お手紙ありがとう」と声をかけられた。1カ月前、女児から「わたしはリハビリをがんばっています」との手紙を受け取り、直接励ましの声をかけることを望まれていた。側近の一人は「慌ただしいなかでお気持ちの通りに進められた」と振り返る。

■ 国際社会への思い

陛下は短いお言葉の中で「平和」という単語を3度使われた。上皇さまと陛下自身の願いとして「世界の平和」を2度使い、さらに日本が「国際社会の友好と平和」に寄与することを希望すると述べられた。国内にとどまらない「世界」「国際社会」に対する陛下の思いが浮かぶ。

戦後生まれとして初めて即位した陛下は、歴代天皇で唯一留学経験があり、外国語が堪能で豊富なグローバル感覚を持たれている。10月1日、19カ国の日系人約180人が東京で集まった「海外日系人大会」では、英語やスペイン語で現地での苦労や活躍をねぎらわれた。

元外交官の皇后さまも海外生活が長く、側近は「両陛下の国際親善への思いは強い」と語る。

即位から5カ月余り、両陛下は精力的に公務に取り組まれてきた。山本信一郎宮内庁長官は「国民の中に入って、親身にお話しされているのが印象的。はつらつと仕事をされている」と話す。

成城大の瀬畑源非常勤講師(社会学)は「平成の象徴天皇像への国民の支持は大きく、この路線を継承するしか道はない。どのような独自色を出していくか、陛下はこれから模索されていくのだろう」とみている。

皇后さま、公務・療養両立

天皇陛下の即位から約半年、皇后さまも精力的に活動を続けてこられた。長期療養が続いてきたため、皇后として新たに抱える公務による負担を心配する声もあったが、最近は単独での公務にも臨まれている。

「賢所大前の儀」に臨む皇后さま(22日、皇居・賢所)=代表撮影

代替わりに伴い、上皇后さまから日本赤十字社の名誉総裁を引き継ぎ、5月には陛下の即位後初となる単独公務として全国赤十字大会に出席された。トランプ米大統領夫妻が国賓として来日した際も通訳を介さずトランプ氏やメラニア夫人と談笑し、国賓行事全てに出席された。約4時間にわたった22日の「饗宴(きょうえん)の儀」も最後まで出席された。

もっとも、2004年に適応障害の診断を受けてからの療養生活は長く、体調にはなお波もある。地方訪問時も連泊ではなく、1泊の旅程となっている。宮内庁の山本信一郎長官は最近の活動ぶりを「大変な努力をされて(公務に)臨まれてきた成果だ」としつつも「ご療養中であるということは忘れてはならない」と話し、過度な負担を避けつつ活動のあり方を検討する姿勢を示している。



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