自民、強まる台湾重視 政策チーム新設で関係強化提言


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Nikkei Online, 2021年3月4日


自民党内で台湾との関係を重視する動きが強まってきた。バイデン米政権をはじめとする国際社会と連携して中国に対抗する一環で、外交部会は台湾情勢を議論するプロジェクトチーム(PT)を新設した。派閥抗争と連動して親中派と親台派が党を二分した歴史は遠くなりつつある。


自民・台湾政策検討PTの初会合であいさつする
佐藤正久外交部会長(2月10日、自民党本部)

Project Team(PT)の名称は「台湾政策検討プロジェクトチーム」で、外交部会内の組織として 2月に発足した。台湾との経済や議員交流のあり方を検討し、4月までに関係強化に向けた提言をまとめる。

初会合では出席者から「台湾が環太平洋経済連携協定(TPP)に入りやすい環境を整える必要がある」「政府の政務レベルで台湾との関係を深めるべきだ」といった発言が相次いだ。

座長を務める佐藤正久外交部会長は「台湾に対する中国の圧力は日本の安全保障にも影響を及ぼしかねない」と指摘した。

党としての政策を議論する政務調査会で台湾政策に関する組織を立ち上げたのは異例だ。日本政府は1972年に中国と国交を正常化した際、台湾と断交した。

政府に代わって交流の窓口となったのは親台湾派の議員でつくる日華関係議員懇談会(現在の日華議員懇談会の前身)だった。

当初は日中友好議連と対立関係にあったものの、冷戦が終結すると親中派への反発も薄れた。

外交部会がPTを設立したのはバイデン米政権の発足から3週間後だった。新政権がトランプ前政権による台湾重視の路線を引き継ぐ方向が見えてきたのを受け、対中政策で歩調を合わせることを狙った。

同時期には人権問題を議論するPTも新設した。香港の民主派が弾圧され、次は台湾が標的になるとの懸念が台湾に関するPT設置を後押しした。

かつて党内は親中・親台で割れた。安倍晋三前首相の祖父、岸信介氏は1957年に首相に就任すると初の海外訪問で台湾や東南アジアなどを訪れた。日米安全保障条約の改定をにらみ、米国と関係が深い地域を重視したためだ。

岸派の流れをくんで福田赳夫氏が立ち上げた清和会(現細田派)が台湾との関係を主導した。

歴史的に中国との関係が深いのは国交正常化を主導した田中角栄氏と大平正芳氏の派閥だ。現在の竹下派と岸田派である。

2000年に台湾の李登輝元総統の来日問題が浮上すると、当時の河野洋平外相はビザの発給に難色を示したものの、森喜朗首相の指示で01年の来日が実現した。森氏は清和会の出身だ。

台湾派は田中、大平両氏と対立した福田氏の流れをくむ議員が多い。細田派出身の安倍氏は首相在任中に中国との関係を重視したものの、野党時代に訪台するなど台湾を重んじる。

実弟の岸信夫防衛相は日華議員懇談会の幹事長を務めてきた。会長を務めるのは安倍氏に近い古屋圭司元国家公安委員長だ。

かつて田中派に所属した二階俊博幹事長はたびたび訪中し、習近平(シー・ジンピン)国家主席ら要人と会談を重ねる。日中友好議員連盟の会長は岸田派の林芳正元文部科学相、事務局長は竹下派の小渕優子元経済産業相が務める。

今回のPT設置に以前のような派閥抗争の色彩は薄い。主導した佐藤氏は竹下派に属する。元自衛官で日米同盟重視の観点から台湾との関係の重要性を説く。

東大の松田康博教授は「現在の台湾重視の動きはかつてと違い、伝統的な台湾とのつながりよりも安全保障上の必要に迫られたものだ」と分析する。

自民党内で台湾重視の声が広がるのは中国への国民感情が悪化した影響もある。言論NPOの20年の世論調査では中国に「良くない」印象を持つ日本人は89.7%に達した。

日本政治外交史が専門の井上正也・成蹊大教授は「政治家が表立って親中を唱えにくくなった。現在の対中外交は政府側が担わざるを得ない」と指摘する。