習氏の「威光」、席配置で演出
米国に軍事はゼロ回答


Nikkei Online, 2023年6月21日 2:00

19日、北京でブリンケン米国務長官(左から2人目)
と面会する中国の習近平国家主席(中央)=新華社・共同

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は19日、北京でブリンケン米国務長官と面会した。米中関係を安定させる重要性を確認した一方、軍事対話の再開を拒んだ。外交儀礼上、異例といえる席配置でブリンケン氏に応対し、自らの「威光」を演出した。

19日夜、北京にある米国大使館。ブリンケン氏は面会後の記者会見で「軍同士の対話チャンネルを確立する必要があると考えているが、中国は同意していない」と明かした。

米本土に飛来した中国の偵察気球を2月に米軍が撃墜して以降、米中の軍事対話は滞った。米軍と中国軍がにらみ合う台湾海峡や南シナ海の緊張状態を和らげるため、米国は早期の対話再開を求めてきた。

シンガポールで2〜4日に開いたアジア安全保障会議に合わせて打診した米中国防相会談は中国側が拒否した。米国に要求していた李尚福国務委員兼国防相に対する制裁の解除に米側が応じなかったためだ。

米政府が事態打開の好機と位置づけたのがブリンケン氏の中国訪問だった。米政府高官は訪中前に「紛争リスクを軽減する危機管理の意思疎通メカニズム構築に関心がある」と話した。

ブリンケン氏によると、習氏を含む全ての会談で軍事対話の再開を求めたものの合意に至らなかった。中国軍トップの中央軍事委員会主席を兼ねる習氏が首を縦に振らなかった可能性が高い。

習氏はブリンケン氏との面会でも威光を見せつけた。北京の人民大会堂の一室でテーブルの中央に座り、両側に米中の出席者を並べた。ブリンケン氏は習氏の右手前側から向き合った。

ブリンケン氏の前に習氏と北京で面会した米国務長官は2018年6月のポンペオ氏だ。このときは両者がテーブルを挟んでソファに腰掛けた。それ以前の国務長官も同様の形式だった。

ビル・ゲイツ氏(左)と話し合う中国の習近平国家主席(16日、北京)=新華社・共同

習氏は16日に米マイクロソフト共同創業者ビル・ゲイツ氏と会った際も椅子を並べて対話した。ブリンケン氏への応対は異例といえる。

伏線はあった。中国外務省は14日、ブリンケン氏の訪中は「双方の合意に基づく」と説明した。中国側の招待客ではないとの意味合いだ。18年のポンペオ氏訪中は当時の王毅(ワン・イー)外相が招いた形をとった。

もともとブリンケン氏の訪中には米中で温度差があった。米政府関係者によると、中国側は高官往来の再開にあたり、まず経済閣僚の訪中を求めた。経済の活性化策を話し合う名目なら対米感情が悪化する国内世論の理解を得やすいからだ。

米国はバイデン政権として最初の訪中閣僚はブリンケン氏で譲らなかった。経済を先行させて対話の再開を急いでいる印象を与えれば、対中強硬姿勢を強める米連邦議会の批判を招きかねないとの懸念があった。

こうした米中のボタンの掛け違いがブリンケン氏の冷遇につながったフシがある。

ブリンケン氏は訪中で首脳会談の早期実現を探ったとみられる。中国外務省によると、習氏は「ブリンケン氏にバイデン大統領への挨拶を伝えるよう依頼した」が首脳会談には言及しなかった。

中国も米中対話は重視する。米国が主導した半導体関連の対中輸出規制は中国国内の技術開発に打撃を与えた。低迷する景気の回復には日米欧からの投資の呼び込みなどが欠かせない。

米中関係が改善するかどうかは年内が一つの目安になる。米国は24年の大統領選が迫るほど、政策面で中国に歩み寄る余地は狭まる。中国が24年1月の台湾総統選後に統一に向けた動きを加速すれば、米中対立はいっそう強まりかねない。

習氏とブリンケン氏が面会した部屋にはハスの花が飾られた。中国語でハスを意味する「荷」の発音は平和の「和」や協力を指す合作の「合」と同じだ。習氏は語った。「中米がきちんと付き合えるかどうかは人類の運命に関わる」

(北京=田島如生)

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