IT大手「トランプ流」決別 Amazon、新興SNS接続停止


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Nikkei Online, 2021年1月10日 20:29


アマゾン子会社は、新興SNS「パーラー」に
クラウド基盤の提供を止めると通告した

【シリコンバレー=奥平和行】米IT(情報技術)大手がトランプ米大統領への締め付けを強めている。ツイッターがアカウントを永久停止し、アマゾン・ドット・コムなどは支持者が愛用するSNS(交流サイト)の運営企業との関係を断つ。メディアを活用して社会の分断をあおってきた「トランプ流」は終息に向かうが、持ち越される課題は多い。

「他者への暴力を助長・扇動する投稿を削除できない顧客にサービスは提供できない」。アマゾンのクラウド子会社は9日までに、新興SNS「パーラー」の運営企業に書簡を送った。グーグルやアップルも同日までにパーラーをアプリ配信サービスから削除し、11日以降は利用できなくなる見通しだ。

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SNSの運営企業ではツイッターが8日にトランプ氏のアカウントを永久停止し、フェイスブックも期限を設けずに利用を停止する措置をとっている。同氏や支持者は規制が緩く「最後のとりで」になりつつあったパーラーも失う形になる。

「ツイッターがなければ大統領になっていなかっただろう」。トランプ氏は2017年、英フィナンシャル・タイムズのインタビューで語った。ツイッターなどを通じて支持者に直接語りかけて支持を広げ、就任後も9000万人近いフォロワーへの発信を継続。FOXニュースなどの保守系メディアとSNSが影響力の源泉だった。

20年の黒人暴行死事件に際して「略奪が起きれば銃撃も始まる」と投稿して強い批判を浴びるなど物議を醸してきたが、SNSの運営企業は「表現の自由」などを理由に静観してきた。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「真実の裁定者にならない」と胸を張り、投稿の規制を避けてきた。

誤情報の拡散などへの批判が強まっても注記を付けるといった対応にとどまっていたが、6日に米連邦議会にトランプ氏の支持者が乱入して死者が発生する悲劇が起きると風向きが変わる。SNSが暴徒を扇動したとの批判が強まり、ミシェル・オバマ前大統領夫人らがトランプ氏へのサービス提供中止を要求。社内でも抗議活動が広がった。

IT大手はこうした声に背中を押されて重い腰を上げた格好だが、問題もある。フェイスブックやツイッターは直近の投稿が利用規約に違反すると説明したが、これまでにも問題となる投稿はあった。判断が恣意的との声が出ており、「公共財」となったSNSの管理を巡る透明で客観性の高いルールが急務だ。

各社は今回、「17日に議会を再攻撃するとの情報が行き交っている」(ツイッター)ことなどを理由に「緊急措置」(フェイスブック)として強硬策に転じた。だが、長年にわたりトランプ氏の投稿に歯止めをかけられなかったように、「平時」には指導者への対抗手段は乏しいのが実情だ。

「トランプ氏はメディアを通じて社会の分断を加速させたが、以前から進行していた分断の産物でもある」。米カリフォルニア大学のリッチ・ジャロスロフスキー講師は指摘する。SNSを含むメディアの多様化と先鋭化がトランプ流を生んだのだとすれば、真因を突き止めて解決先を見つけない限り悲劇の再現は避けられない。