Nikkei Online, 2026年1月20日 11:00

第2次トランプ米政権の発足から1年。世界はあっという間に弱肉強食の「ジャングルの法則」が支配するようになった。弱者の屈服は強者の増長を招き、米国の力の行使は一線を越え始めている。
ある日本のメガバンクは、米国側の要請で在日米国大使館に4億円を拠出するという。理由は米国の建国250周年記念。能登半島地震時の義援金5000万円を上回る破格の「寄付金」となる。
大手商社や大手自動車にも奉加帳が回り、日本側の拠出額は100億円を超える可能性がある。米国はその資金でパーティーを開くと日本側に説明。日本企業はその正当性に首をかしげながら「トランプ2.0の今の米国には誰も逆らえない」。
電力不足の米国は2026年から1000億ドル(約16兆円)規模の資金を投じて原子力発電所の新増設に踏み切る。エネルギー政策の大転換だが、日米外交筋によるとトランプ政権はその資金負担を日本に求めているという。

日欧韓は「トランプ関税」の圧力をかわすため、合計1兆5000億ドルもの対米投融資を約束した。世界最大の市場である米国でビジネスをするには、企業も国家も破格のカネを積まなくてはならなくなった。
「我々が生きる現実世界とは、太古の昔から力の支配である」。トランプ大統領の最側近であるスティーブン・ミラー次席補佐官はそう言ってはばからない。トランプ氏も「私に国際法は不要」と断じ、ベネズエラへの電撃的な武力行使に踏み切った。
堂々と力の支配を宣言する米国。軍事力でも経済力でも劣る各国は「ジャングルの法則の下で、弱者としての運命を受け入れるしかない」(国際通貨基金=IMF=元チーフエコノミストのオリビエ・ブランシャール氏)。
その弱者の屈服は強者をますます増長させたのではないか。国際ルールを重んじてきた日本と欧州は、トランプ政権の相互関税を世界貿易機関(WTO)ルールで制止ししようとしなかった。
日欧はベネズエラへの武力行使についても明確な対米批判を避けて口を濁す。ベネズエラ野党指導者のマリア・コリナ・マチャド氏は、受賞したばかりのノーベル平和賞のメダルをトランプ氏に「授与」することになった。
この1年のトランプ政権による強硬策にはわずかばかりの理があった。トランプ関税の背後には巨額の貿易赤字があり、ベネズエラ攻撃にも麻薬流入阻止という一応の名目があった。
デンマーク領グリーンランドの獲得には理が見当たらない。同地に安全保障上の危機はなく、麻薬流入のリスクもない。
それにもかかわらず、米国は武力行使も辞さない構えまで見せ始め、同地獲得に反対する北大西洋条約機構(NATO)同盟国に関税発動を表明した。増長した米国の主権侵害は明らかに一線を越えつつある。
2年目に入るトランプ2.0。ジャングルの法則は世界と米国にそろってリスクをもたらす。一つは世界への力の拡散、もう一つは米国の力の衰退である。

世界は力で対抗せざるを得ない。中ロだけでなく欧州やアジアも国防費を積み増し、世界の軍事支出は35年に2.5倍の6.6兆ドルまで膨らむ可能性がある。
経済も力の勝負となる。中国はWTOルールに抵触しかねない巨額補助金で輸出価格を引き下げ、25年に過去最大の貿易黒字を計上した。
米国には衰退のリスクがある。戦後、米国は国際社会の支援がないままベトナム戦争とイラク戦争に踏み切った。いずれも巨額の戦費で財政が逼迫し、通貨不安や金融危機を招いて国力を落とした。同盟国の協力なくして覇権体制が成り立たない史実をトランプ政権は無視している。
覇権国と異なり「普通の国」はときに世界秩序よりも国益を優先してきた。日欧ともウクライナ侵略を批判しながら、ロシアのエネルギーを調達し続ける。米国の力の支配を嫌うのであれば、普通の国も国際秩序を保つ負担と摩擦に向き合わなければならない。