Nikkei Online, 2022年4月15日 9:31更新
【ワシントン=中村亮、イスタンブール=木寺もも子】ロシア国防省は14日、ロシアの黒海艦隊の旗艦である巡洋艦「モスクワ」が沈没したと発表した。タス通信が報じた。米国防総省高官は大規模な火災があったと分析し、ウクライナ軍がミサイル攻撃を実行した可能性を排除しないとの見解を示した。
ロシア国防省は声明で「モスクワを目的地の港湾に向けてえい航していたところ、弾薬の爆発で起きた火災による船体の損傷で船が安定性を失った」と説明。天候が悪かったこともあり、モスクワが沈没したと明らかにした。約500人とみられる乗組員は別の艦船に避難していたという。
ロシアの発表に先立ち、米国防総省高官は記者団に対し、ウクライナ南部の港湾都市オデッサの海岸から約110キロメートルの黒海上を航行していたモスクワで火災が発生したと明らかにした。火災が起きた海域から東に進んだといい、ウクライナ領クリミア半島のセバストポリにある海軍基地を目指していると分析した。
ロイター通信によると、モスクワは旧ソ連時代のウクライナで建造され、1983年に就役した。多数の対艦ミサイルなどの装備を持ち、2014年のクリミア併合の際に使われ、プーチン大統領と各国首脳の会談の会場としても活用された。
沈没はウクライナ侵攻で誤算を重ねるロシア軍の状況を映し、ロシア軍の士気の低下につながる可能性もある。
国防総省高官は火災の原因について複数のシナリオをあげた。一つはウクライナ軍が国産の対艦ミサイル「ネプチューン」で攻撃した可能性だ。ネプチューンの射程は300キロメートル程度とされ、高官は「(モスクワは)射程外にいなかった」と語った。
高官によるとモスクワでの火災後、オデッサに近い黒海の北側で活動をしていたロシア軍の艦艇4~5隻がすべて南下し、少なくともオデッサの海岸から約140キロメートル離れた位置に移動した。ネプチューンの射程に入っているため海岸から離れていっている可能性がある。
ウクライナ側はネプチューン2発でモスクワを攻撃したと主張している。事実であればロシア軍によるオデッサへの上陸作戦がさらに遠のく公算が大きい。ロシア軍がウクライナ軍のミサイルの能力を過小評価していた可能性も出てくる。
高官は「とくに防空を目的とした水上戦闘艦の場合には火災のリスクや爆発の可能性はある」とも強調し、事故の可能性も排除しなかった。「結論を出す前に慎重になる必要がある」と語り、情報を精査する考えを示した。
沈没はロシア海軍に打撃となるが、ロシアが優先地域とするウクライナ東部ドンバスでの地上侵攻に大きな影響が出るわけではない。国防総省高官はロシア軍が東部と南部に大隊戦術グループを65個集め、数日以内に追加するとの見通しを示した。1個あたりの兵士は800~1000人とされ、攻勢への準備を進めている。
ロシア西部ベルゴロド州の知事は14日、ウクライナ軍の攻撃を受けたとSNS(交流サイト)のテレグラムに投稿した。被害は出ていないという。同州は1日にも燃料貯蔵施設が攻撃を受けたとしている。米国防総省高官によると、ベルゴロドはドンバスに向かうロシア軍の補給拠点となっている。
ロシアの捜査当局は14日、西部ブリャンスク州の住宅がウクライナ軍の攻撃を受け、幼児を含む7人が負傷したとも主張した。声明によると越境したウクライナ軍のヘリコプター2機で、少なくとも6度にわたり「意図的」に住宅を攻撃したとしている。インタファクス通信が伝えた。
ウクライナ側は越境攻撃についてコメントしていない。真偽は不明だが、両国間の戦闘激化につながる恐れがある。