危ないロシアの中国従属 北朝鮮に劣らぬ核脅迫も

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Nikkei Online, 2022年5月6日 10:00

コメンテーター 秋田浩之

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席㊧と
握手する北朝鮮の金正恩総書記
(写真は2019年6月、平壌)=朝鮮中央通信・共同

ウクライナへの侵略後、ロシアは西側諸国から重い制裁を浴び、経済の傷は深まっている。経済封鎖が長引けば、国の力は衰えていき、名実ともに大国の座から転落するだろう。

米欧はそこまで追い込み、世界秩序を脅かす体力までもロシアから奪おうとしているようだ。必ずしも誤った戦略ではない。そうでもしなければ、プーチン政権による侵略は止まらないだろう。ただ、この路線には大きな盲点もある。ロシアを弱体化した末に待っている世界が、バラ色とは限らないという点だ。

米欧、アジアの要人や識者が集まり、4月25~27日、地政学上の課題を話し合う「レイジナ対話」がニューデリーで開かれた。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長や米政府高官らがロシアへの圧力強化を呼びかけ、開催国のインド側などに重ねて同調を迫った。

自活できず、不安抱える巨熊

ところが米欧の参加者らと話すと、別の本音も聞かれた。ざっくりいえば、次のような憂いだ。

制裁でロシアは半導体や工作機械の供給を絶たれ、多くの外国企業が去った。このままいけば、ロシアは弱体化していく。そのとき地政学上、大きな危険や混乱をもたらす恐れもある……。

ロシアが窮すれば、経済の対中依存をさらに深めるだろう。事実上、中国に従属する国家に陥っていく可能性がある。

両国はすでに、対等とはほど遠い力関係にある。ロシアの国内総生産(GDP)は中国の約10分の1にすぎず、米調査機関のOECによれば、輸出の約15%、輸入の約23%を中国に頼る

ロシアが中国に従属する筋書きは、世界にとって決して望ましくない。ロシアはさらに凶暴になり、西側諸国への挑発に出る恐れが高まるからだ。

ロシアを大きな熊に見立ててみよう。自活できず、不安を抱える巨熊は危ない。いつも周囲を警戒し、いら立ち、ちょっとしたことで暴れかねない。

ロシアが凶暴になれば、当時のブッシュ(第43代)政権が「悪の枢軸」と呼んだ北朝鮮やイラン、イラク(当時のフセイン政権)の比ではすまない。ロシアは大量の核ミサイルを抱え、サイバーの攻撃力も強い。外交上の影響力も侮れない。4月7日、人権理事会からロシアを追放する国連総会決議では、賛成93カ国に対し、棄権・反対が82カ国にのぼった。

長年、対ロ政策に携わる欧州の政府高官は語る。「中国に従属すれば、ロシアは大国の誇りを傷つけられ、劣等感にさいなまれる。そして、西側への被害妄想も深めるはずだ。反動として、西側により好戦的になり、予測できない行動に出るリスクが高まる」

ロシアによる中国への従属は、米中の大国競争にも大きな変化をもたらす。中国はユーラシア大陸の東側を影響下に置くことになる。中ロに挟まれた中央アジアや、アフガニスタンも、たちまち中国色に染まるだろう。

アジア安保への影響大きく

地政学上の影響は軽視できない。英地政学の大家、マッキンダーは約1世紀前、中央アジア、アフガンをハートランドと呼んだ。ここを支配した国がユーラシア全体を押さえ、世界も支配すると予測した。

19~20世紀初頭、英国とロシアが覇を競ったのもこの地域である。米中に当てはめれば、世界の覇権争いで中国がさらに優位に立つということだ。

アジアだけとっても、安全保障への影響は大きい。例えば、中国は尖閣諸島や台湾などの問題で一層、ロシアに連帯を求めるようになるだろう。

プーチン政権はいままで尖閣諸島や台湾問題をめぐり、「中立な立場に努めてきた」(ロシア外交の専門家)。中国の紛争に巻き込まれ、米国や日本と戦う羽目になるのは嫌だからだ。

だが、中国に従属したロシアが、中立を保つ保証はない。尖閣や台湾海峡の紛争にロシア軍が直接介入することはないにしても、日米をかく乱するなど、中国を利する挙に出る危険が生まれる。日本の安保担当者は「アジア有事の際、ロシア軍の出方をより警戒せざるを得なくなった」と話す。

個人独裁の色濃いプーチン氏

ここまでは対外政策の話だが、国家のあり方に目を向けると、プーチン政権は北朝鮮に似てきている。むろん、金正恩(キム・ジョンウン)総書記ほどではないが、プーチン氏は個人独裁の色を濃くしている。

国家の安全保障を核戦力に頼る傾向も、北朝鮮と重なる。通常戦略では米国にかなわないため、核による脅しを連発する。北朝鮮と同じく、この傾向はさらに強まるだろう。

だからといって、侵略を続けるロシアに対し、西側諸国が手心を加えるべきだというわけでは全くない。短期的には最大限の制裁を科し、侵略を失敗に終わらせるべきなのは言うまでもない。

その一方でロシアの中国従属をできるだけ防ぐため、「プーチン後」に対ロ関係を再建できる余地を残しておくことも賢明だ。簡単ではないが、打てる手は皆無ではない。プーチン氏と距離を置く政治家とパイプを保つほか、放送やネットを通じ、ロシア国民に正しい情報を発信する努力を強めることも一案だろう。

プーチン政権を追い詰めることは必要だ。同時に将来、いまよりも暗い地政学図をもたらすことも防がなければならない。

 

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