大断層(3)30歳未満17%が仕事失う

報われぬ世代、渇望を力に

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Nikkei Online, 2020年12月22日 11:00


新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの若者にマイナスからの
スタートを迫る(チリ、2020年10月)=ロイター

あなたは、自分の親よりも豊かになれる自信がありますか――。

「高齢者のような貯蓄など私たちにはない」。英国のイングランド北西部に住むジュリア・フリーマン(29)さんはくじけそうだ。大卒でも定職はなく、幼い2人の子を抱える。新型コロナウイルスの流行に伴うロックダウン(都市封鎖)の影響で、夏に法律事務所を解雇された。やっと得た販売員の仕事も11月の初出勤の日に再び都市封鎖が決まり、失った。

そこから約7千キロ離れたケニアのナイロビでもチャールズ・ソンコ(30)さんが「人生が振り出しに戻った」と嘆いている。ガイドとして月200ドル(約2万円)以上を稼いでいたが、3月に旅行会社を解雇された。結婚の予定も延期した。

国際通貨基金(IMF)の報告書によると、世界で働く18~29歳の17.4%がコロナ禍で失業・休業し、42%の収入が減った。30~34歳も失業・休業は10%を超えた。米国で親と同居する若者は5割超と1930年代の大恐慌以来の高水準だ。

コロナ禍は世界共通の時代体験として「コロナ世代」を生む断層を刻んだ。「#ブーマー・リムーバー」。高齢者ほど重症化や致死のリスクが高いコロナについて「戦後生まれのベビーブーマー世代を取り除くウイルス」と評する心ない造語がネット上で流行した。

閉塞感をより深めているのは、20世紀後半の高度成長時代が遠ざかり、若者の憤りが時間とともに薄れると期待しにくくなっていることだ。すでに手にした富は高齢世代に偏る。米国で46~64年生まれの保有資産は約60兆ドル。65~80年生まれの2倍、81~96年生まれの10倍に上る。

さらに、子が親より豊かになる階段も壊れた。経済協力開発機構(OECD)によると、米欧14カ国の43~64年生まれは20代で7割が中間層に属した。80年代から2000年代初めに生まれた世代だと6割に細る。ドイツ銀行のジム・リード氏は「若者が怒りの矛先を誤って資本主義に向け、経済をさらに傷つけかねない」と警戒する。

米政治専門紙ヒルの8月の調査では社会主義に「親しみがある」と答えた米国民は50歳以上で3割前後。これに対し18~34歳は52%、35~49歳は59%に上る。この20年、世界金融危機やコロナ禍など相次ぐ激動にさらされ、このままでは報われないとの怒りを引きずる世代が拡張した。

次期米大統領に就くジョー・バイデン氏の得票をみても、18~49歳の支持が現職のトランプ大統領を上回った。「現状変革を望む世代」の広がりが新たなリーダーを選んだ。だが成長というパイの拡大がないまま再配分だけ求めても、経済社会が停滞した旧ソ連のような「社会主義の失敗」を繰り返しかねない。

米哲学者エリック・ホッファーは成長を続ける創造的な人間を「永遠の青年」と呼んだ。旧弊を壊し、理想をめざすためには、新たな創造につながる教育という土台が要る。知識や技術、そして考える力。教育という社会全体の将来を支える投資を厚くしてこそ、「失われた世代」の連鎖を食い止める道を描ける。

閉塞への憤りをただ抑えれば社会不安を招く。1人ではできない変革への推進力へとどう変えていくか。危機は次の飛躍への起点にもなる。