大断層(4)勝者なき「Gマイナス2」 

自由か権威か、体制二分

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Nikkei Online, 2020年12月23日 11:00


2012年にそれぞれ米副大統領、中国国家副主席として会談した
バイデン氏(写真右)と習氏(12年、米ロサンゼルス)=ロイター

このまま世界が2つに割れていくと思いますか――。

12月上旬、米ホワイトハウスで開いたパーティーでオーストラリア産のワインがふるまわれた。

「哀れな中国のワイン愛好家は楽しめない」。米国家安全保障会議(NSC)は、中国が豪州産ワインへの反ダンピング(不当廉売)措置をとっているせいだと皮肉を込めてツイートした。

きっかけは豪州が4月に新型コロナウイルスの発生源を巡り独立的な調査を求めたこと。反発した中国による対抗措置が続く。米国や台湾を中心に豪州支持の声が広がり、摩擦は米中対立の代理戦争の様相を呈する。

冷戦時は緊張感こそあったものの構図は単純だった。資本主義か共産主義か。イデオロギーが陣営を分けた時代は終わり市場経済のグローバル化が共通の価値となった。

水面下で、いかに経済成長を実現するかの方法を巡り自由主義と権威主義という異なる志向が流れていた。その地下水脈をコロナ禍が暴いた。

人々の自由を重視し厳格な感染防止策をとるのが遅れた米欧では多くの人命が失われた。それでもなおマスク着用を拒む人がいる。対照的に秩序優先で強権も辞さない中国がウイルスを比較的うまく封じたとの印象は、断層をさらに広げる。

米欧はワクチン68億回分を先進国などに供給する。中ロの供給力は6億回分とされるものの、感染が落ちつき国内向けに余裕がある中国は新興国への提供に動く。

中国の「成功」は独裁者の良い口実になる。ウガンダで11月、34年間の独裁政権に抗議した人たちが逮捕されたのは中国の華為技術(ファーウェイ)の監視カメラの画像が決め手だった。

アフリカではコロナ禍で需要が高まったオンライン化に対応するため、高速通信規格「5G」通信網でもファーウェイ製機器の採用が相次ぐ。



米国を中心に対抗する動きはある。「有志国の企業同士の連携が必要だ」。米シンクタンクの報告書で、イラク戦争時も使われた「有志連合」といった表現が5Gや半導体製造など民間案件でも用いられ始めている。

豪州も中国への対抗心を燃やす。そのあおりでキリンホールディングスが計画した豪州の乳飲料事業の中国企業への売却は頓挫。豪政府が「国益に反する」と許可しなかったためで、同事業は豪乳業大手にわたる。

トランプ米大統領は中国を新興国扱いして中国発の郵便料金を不当に安くしていると、万国郵便連合(UPU)脱退を示唆した。米国を引き留めるための制度の見直しで世界の郵便料金は高くなる。日本でも米国向け国際郵便が来年4月に最大5倍に値上がりする。

勝者なき体制間の闘争はいつまで続くのか。

「米中とも覇権国への期待と逆のことをしている」。インド政府の元首席経済顧問、アルビンド・スブラマニアン氏は両大国が秩序づくりでなく、自ら国際協調を乱す現状を「G2」ならぬ「Gマイナス2」と呼ぶ。

ともに市場経済を否定しないだけに冷戦時より複雑だ。中国への反発には、自分たちこそ正しいとの自由主義社会のプライドにも似た感情がこもる。それゆえ米大統領が代わっても構図は簡単に変わりそうにない。企業や個人も予期せぬコストへの覚悟が必要となる。