インテル救済に官民一丸 半導体受託製造に 4200億円補助

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Nikkei Online, 2024年9月17日 15:04


米国の官民が米インテルの救済に一丸で乗り出した。16日、米政府はインテルに最大30億ドル(約4200億円)の補助金を追加支給し、米アマゾン・ドット・コムは人工知能(AI)向け半導体の生産を委託すると発表した。半導体は安全保障上の重要性が増している。最先端の半導体製造の国産化を背負うインテルに米政府の関与が強まっている。

「インテルの過去40年間で最も重要な変革だ」。インテルのパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)は16日、一部門である半導体の受託生産(ファウンドリー)事業を分社化し、外部資本を受け入れられるようにすると発表した。設計と製造を分離し、自社製品の製造もファウンドリー新会社が担う。

投資計画も一部見直す。ポーランドとドイツで予定していた投資計画を約2年間、中断すると発表した。一方で米アリゾナ州や米オハイオ州など米国内の投資計画は維持する方針を示した。

インテルの株価は16日の米株式市場の時間外取引で一時、同日終値に比べ約11%上昇した。投資家の安心感を誘ったのは、米政府による強い関与の姿勢だ。

米国防総省が声明、「国家安全保障のため」

インテルは16日、米政府から新たに最大30億ドルの補助金の支給を受けると発表した。米国防総省と米商務省は共同声明で支援の理由について「国家安全保障のために国内の先端半導体の供給網へのアクセスを確保する」と説明した。

米政府は2022年に成立させた「CHIPS・科学法」を通じて国内の半導体のサプライチェーン(供給網)強化をめざしてきた。3月にはインテルの米国内の工場に最大85億ドルの補助金を拠出すると発表した。今回の補助金はCHIPS・科学法に基づく従来の拠出額に上乗せする。

インテルのアリゾナ州の工場を訪れたバイデン米大統領=ロイター

CHIPS・科学法の一丁目一番地の政策は、米国内に最先端のロジック(演算用)半導体の生産拠点を確保することだ。少なくとも2カ所の生産拠点の新設を明記する。

台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子など外国資本の半導体企業がアリゾナ州やテキサス州に投資してきた。とりわけ、米国メーカーのインテルは4つの州にまたがって投資する計画を打ち出していた。

クラウド最大手も側面支援

クラウド事業の最大手、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)も16日にインテルにAI半導体の生産を委託すると発表した。数年間にわたり共同で数十億ドル規模の投資を見込む。米政府に歩調を合わせ、官民でインテル支援を演出した。

AI半導体製造のTSMC依存が強まっており、TSMCも受託料の引き上げを検討していると報道される。AWSはインテル支援を通じて、AI半導体の調達を分散してコストを引き下げたい思惑がある。

CHIPS・科学法、失敗の恐れ

米国が官民一体支援を前面に打ち出すのは、インテルが先端ロジック半導体の設計と製造をともに手がける唯一の米半導体大手のためだ。

米半導体工業会(SIA)などによると、米国の半導体の製造能力のシェアは22年に10%と1990年の37%から下落した。半導体産業に詳しいカナダの調査会社テックインサイツのシニアフェロー、ダン・ハチサン氏は「インテルが立ちゆかなくなれば、CHIPS・科学法そのものの失敗を意味する」と指摘する。

インテルにとって今回の経営不振は3度目の挫折となる。80年代には日本企業の攻勢でDRAM撤退を決断した。その後パソコン向けCPU(中央演算処理装置)で覇権を握ったが、モバイル化の波には乗り遅れた。足元ではAI半導体で米エヌビディアに引き離されている。

インテル、微細化競争から落後

インテルの共同創業者の一人、故ゴードン・ムーア氏が65年に提唱した「ムーアの法則」は長らく半導体産業の進化の指標となってきた。インテルは半導体の集積度が約2年で倍増するという予測に従い、微細化競争で先頭を走ってきた。

インテルをトップから引きずり下ろしたのがTSMCだった。TSMCは半導体の受託製造に特化し、幅広い顧客から受注することで莫大な投資負担を軽減して微細化技術を磨いてきた。19年頃から微細化でインテルを上回るようになった。

設計と製造の垂直統合にこだわるインテルはパソコンやサーバー向け半導体で、製造をTSMCに委託する米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)などからシェアを奪われている。

経営不振の打開策が、21年に表明した受託生産への参入だった。最先端のロジック半導体の確保に躍起な米国から巨額支援をとりつけたものの、大口顧客が得られないまま先行投資がかさみ、業績は悪化している。

受託生産事業の24年4〜6月期の営業損益は28億3000万ドルの赤字(前年同期は18億6900万ドルの赤字)だった。受託生産の不振がインテル全体の足を引っ張り、同期の連結最終損益も約16億ドルの赤字になった。最終赤字は2四半期連続になる。8月、従業員の15%にあたる1万5000人の人員削減と配当の停止を発表した。

インテルの受託生産の再建は簡単ではない。同分野で2位の韓国サムスン電子も苦しんでいる。サムスン半導体部門の年間設備投資は5兆円規模。半導体メモリーとともに巨額資金を投じるものの、最先端の3ナノ(ナノは10億分の1)メートル半導体の歩留まり(良品率)が安定せず、足元のシェアは11%程度とTSMCの背中は遠ざかるばかりだ。

台湾は政府と民間の集中支援を通じ、TSMCを世界最大の半導体受託製造企業に育てた。今回のインテルの受託製造の支援は官民が一丸となった米国版「TSMC」構想ともいえる。最先端半導体の確保に向けて賽(さい)は投げられた。


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