Nikkei Online, 2025年11月7日 11:13更新

6日の米株式市場はハイテク株を中心に株式の割高感への警戒が高まり、テックなど主力株が売られた。米労働市場の減速懸念も相場の重荷となった。米調査会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスが同日発表した統計では米国で10月に公表された人員削減数が前年同月から約3倍に増え、雇用不安をかき立てている。
4日の米ニューヨーク市長選で選ばれたゾーラン・マムダニ氏が掲げる政策が企業のニューヨーク離れを促すとの懸念が経済界に広がる。増税や家賃凍結など同氏の公約は企業経営を直撃するからだ。
マムダニ氏は大企業や富裕層に厳しい姿勢を示し、金融界の大物やウォール街の経営者から警戒の声が上がる。著名ヘッジファンド経営者のビル・アックマン氏は選挙前に「マムダニ氏が勝てば企業の大脱出が起きる」と発言していた。
ニューヨーク離れが進むなら、逆に恩恵を受けるエリアはどこか。注目は法人税が安いテキサス州、フロリダ州など米南部だ。税率や物価、人件費が他州に比べて低く、規制が比較的緩く、近年企業の移転が進みつつあった。マムダニ氏の政策が南部シフトを後押しするとの見方もある。
フロリダ州の不動産開発会社BHグループの最高経営責任者(CEO)のアイザック・トレダノ氏は欧米メディアに対し「既に多くのニューヨークの買い手がフロリダで不動産購入を検討し、情報を集め始めている」と話し、波及効果に期待する。
テキサスも注目エリアだ。近年は同州ダラス市でゴールドマン・サックスなど金融大手が相次いでオフィスの建設や拡張に動く。ウォール街に対抗し、テキサスなまりの挨拶から名付けられた「ヨール街」という新語もつくられた。
テキサスは証券取引所の競争も熱い。米証券取引所ナスダックがダラスに地域本部を開設するほか、地場企業が創設した「テキサス証券取引所(TXSE)」は米証券取引委員会(SEC)から設立承認を9月30日に得たばかりだ。
大手企業では24年に米東部デラウェア州からテキサス州に法人登記を移した米電気自動車(EV)大手テスラの例もある。
同社が6日に開いた定時株主総会ではイーロン・マスクCEOへの巨額報酬案が承認されたが、そもそもテキサス州への登記移転のきっかけも報酬案だった。報酬案に反対した株主が訴訟を起こし、その後、裁判で報酬案を無効にしたデラウェア州に不満を持ったマスク氏が移転を決めた。テキサス州の法律は企業に比較的寛容で、株主からの訴訟リスクを一定程度防げる内容になっている。
マムダニ氏が当選して以降、米南部の一部企業の株価は上昇。当選前の3日と6日の株価を比較するとフロリダ州の金融会社フィデリティ・ナショナル・インフォメーション・サービシズは約4%高、レイモンド・ジェームズ・フィナンシャルは約1%高。まだ反マムダニ効果を織り込んでいるとも言い切れない。
米南部は近年、保守化や右傾化が進み、前向きな話題ばかりでもない。企業の多様性重視などの施策を否定する動きもある。「反マムダニ」を起点にした企業の動きは都市間の新たな競争を促すともいえそうだ。
(ニューヨーク=川上梓)