在韓米軍、台湾有事に即応体制 
北朝鮮・中国両にらみ

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Nikkei Online, 2026年1月3日 11:00

25年8月、ソウル近郊で韓国軍と合同訓練をする米軍=共同

【ソウル=藤田哲哉】在韓米軍は台湾有事への即応体制を築くため活動範囲を朝鮮半島以外に広げる。中国が台湾への軍事的な圧力を強めるなか、インド太平洋を活動範囲に加え、北朝鮮だけではなく中国への抑止力も高める。

ブランソン在韓米軍司令官は2025年12月29日、ソウル市内で開いた米韓連合軍司令部主催のフォーラムで演説し「韓国はもう朝鮮半島の安保だけに限定された存在ではない」と述べた。

在韓米軍は台湾有事を念頭に、南北逆さまの東アジアの地図(The East-Up Map)をこのほど同軍のウェブサイトに公開した。「戦略的柔軟性」に基づいて軍を運用するため、ブランソン氏が内部でも使うよう指示しているという。

地図には北朝鮮の平壌に加え、中国の北京や台湾の台北、フィリピンのマニラ、ロシアのウラジオストクといった周辺の主要都市までの距離を記した。東アジアの在韓米軍の戦略的な優位性を示す。

在韓米軍がホームページ上に公表した南北逆さまの地図

米韓同盟に基づく在韓米軍は北朝鮮の抑止を主な任務としてきた。1953年の朝鮮戦争休戦を機に米国が韓国を守るために置いた。足元では中国軍の拡張が止まらないため、活動範囲を見直す。

2025年11月に韓国を訪れたヘグセス米国防長官は記者会見で「同盟を通じて朝鮮半島で安定を守り、韓国を守ろうとするその意志は明確にある。 しかし同時に地域のほかの緊急事態に対処するための柔軟性の向上が必要な状況だ」と強調した。

韓国政府は「在韓米軍の駐留目的は朝鮮半島の防衛が主任務」と考えており、第三国への派遣には慎重な立場だ。

「27年に台湾侵攻」現実味

在韓米軍が柔軟性を高めて北朝鮮と中国の両方をにらんだ態勢をとるのは、台湾有事が現実味を帯びているためだ。

米国防総省は25年12月23日、中国の軍事力に関する年次報告書で、中国軍が27年までに台湾侵攻を可能にする態勢構築に向けて「着実に前進を続けている」と分析した。

在韓米軍は約2万8000人が駐留し、司令部はソウルから南に約70キロメートルの平沢市の基地「キャンプ・ハンフリーズ」にある。地理的には北朝鮮だけでなく、中国や台湾にも近い。

ブランソン氏は韓国の地理的位置について「北に北朝鮮、西に中国という独特の利点がある」と指摘する。「西部海域では中国軍の北海艦隊を抑止する」と説明する。

在韓米軍は現在、部隊の多くをキャンプ・ハンフリーズに集約している。北東アジア全体を見渡す機動性を持たせるためだ。在韓米軍の烏山空軍基地や平沢港が隣接しており、有事の際に兵力や物資の支援を受けやすい。

アジアのほかの地域に派兵する際の中継基地にもなる。平沢港から黄海に抜け出た先には、中国の空母「遼寧」が母港とする山東省青島がある。地政学的に平沢市にある在韓米軍の戦略的な意味合いは大きい。

在韓米軍は25年9月末、無人機MQ9リーパーを韓国西部の群山の米空軍基地に配備した。これまで訓練目的で一時的に配備したことがあるが、韓国に常時配備するのは初めて。

北朝鮮の動向を監視するほか、黄海で中国を監視する任務にも投入する可能性がある。

第1列島線を意識

米軍が特に意識するのが沖縄から台湾、フィリピンにつらなる「第1列島線」だ。中国軍は最近、第1列島線を越えて、小笠原諸島やサイパン、グアム島につらなる第2列島線を含む太平洋海域で活発に動いている。

戦略的な重要性を増している「第1列島線」=共同

第1列島線は中国からみれば近海の防衛線だ。米国にとっては中国の太平洋進出を防ぐ封鎖線となる。在韓米軍関係者は「韓国は第1列島線で(中国)船を(外洋に出さず)固定するための理想的な錨(いかり)になる」と強調する。

韓国の積極関与「見たい」

米国は韓国軍にもインド太平洋地域で役割を広げるよう求めている。ブランソン氏は25年12月19日、軍事メディアで「韓国はインド太平洋の平和において非常に重要だ」と強調した。

「韓国軍がより積極的に活動範囲を広げる姿を見たい。 朝鮮半島にとどまらず、より積極的に関与することを目指し、大規模な訓練に参加する機会を確保する」と述べた。

トランプ政権は韓国が原子力潜水艦を建造するのを認めた。25年末に訪韓した米海軍作戦部幹部は原潜の役割について「中国をけん制するのに使われるというのは自然な予測」との認識を示す。

米国は東アジアの安全保障で自国の負担を減らすため、日本にも貢献を増やすよう迫ってきた。25年12月に公表した安全保障政策の指針となる国家安全保障戦略(NSS)で第1列島線を防衛ラインと位置づけ、日本に防衛費の増額を求めた。


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