Source: Nikkei Online, 2025年10月20日 9:03更新

【イスタンブール=渡辺夏奈、ワシントン坂口幸裕】イスラエル軍は19日、パレスチナ自治区ガザにあるイスラム組織ハマスの拠点数十カ所を攻撃した。イスラエルとハマスの双方が合意違反を指摘し合う状況となっており、停戦の継続が危うい。今後の方針について協議するため、バンス米副大統領らは21日にもイスラエルを訪問すると報じられている。
イスラエルは南部ラファで同国軍への攻撃があったとしてまずラファを空爆し、その後攻撃の対象を広げた。イスラエルは「停戦合意の違反だ」とハマスを批判した。中東の衛星テレビ局アルジャズィーラは19日、イスラエルによる一連のガザ攻撃で少なくとも42人が死亡したと報じた。イスラエル軍でも兵士2人が死亡した。
イスラエル軍は19日、一連の攻撃の後、停戦合意の履行を再開すると発表した。
停戦合意はガザでの戦闘を停止し、ハマスが遺体も含めた人質全員を解放するとの内容だ。イスラエルは見返りとして、パレスチナ人囚人ら2000人を釈放し、ガザへの人道支援を広げるとしていた。
ところが遺体の返還は想定通りに進んでいない。ガザには19日時点で10人を超える人質の遺体が残っている。戦闘により行方不明になっている遺体があり、全員を返還するのは困難だと指摘されている。
イスラエルのネタニヤフ首相は18日、ガザに残る人質の遺体の返還が遅れていることに不満を示し、エジプトとガザをつなぐラファの検問について「追って通知があるまで開放しない」と述べた。
ラファの検問は支援物資の主要な搬入路だ。開放されなければ停戦により実行されるはずの支援拡充が遅れることになる。
ハマスを巡っては、停戦後に別の武装勢力と衝突したとの報道も出ている。米国務省は18日、ハマスがガザ市民に対する攻撃を計画しているとして「停戦合意の直接的かつ重大な違反だ」と非難する声明を出した。
トランプ米大統領はハマスが合意を履行できなければ、イスラエルによるガザ攻撃再開を容認する姿勢を示している。
ハマスは18日に声明を出し、ラファ検問を当面開放しないとするネタニヤフ氏の決定が「停戦合意に対する明確な違反だ」と反発した。イスラエルが停戦後「攻撃を続けている」とも批判した。これまでに合意違反は47件以上発生し、38人が死亡したと述べた。
合意違反が続けば今後戦闘が再開することにつながりかねないため、停戦合意を仲介した米国も警戒している。
米ニュースサイトアクシオスによると、バンス氏は21日にもイスラエルを訪問する。ウィットコフ米中東担当特使や、今回の停戦交渉で大きな役割を果たしたとされるトランプ氏の娘婿、ジャレッド・クシュナー氏も加わるという。
バンス氏は19日、記者団に自身のイスラエル訪問について「可能性はある。現在調整中だ。現地の状況を確認したい」と述べた。「数日内に政権の関係者行くのは確実だ」とも語った。
ガザ和平合意の履行を巡り「複雑な状況になるだろう。トランプ大統領と私が望む持続可能で長期の平和が確実に実現するにしても紆余曲折はあるだろう」と話した。ハマスが攻撃すればイスラエルは応戦せざるを得ない」と主張した。
トランプ氏はハマスによる生存人質の解放などを受け、停戦の第1段階が履行されたと認識している。バンス氏らはハマスの武装解除やイスラエル軍のガザ完全撤退といった「第2段階」の詳細について協議するとみられる。
トランプ氏は戦闘は終結したと訴え、パレスチナ和平につなげる長期の構想を進めようとしている。10日の停戦発効から1週間あまりでの対立先鋭化は、和平への道のりの長さを浮き彫りにしている。