半導体再興、日米で綱引き キオクシア・WD統合交渉

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Nikkei Online, 2021年8月29日 5:00

日米が半導体産業の再興を急ぐ中、キオクシアホールディングスと米ウエスタンデジタル(WD)の統合交渉が続いている。半導体はデータ社会の要諦で、安全保障面からも各国が振興策を打ち出す。供給網を共同歩調で整備し、巨額の補助金で台頭する中国をけん制したいとの思いは日米政府とも共通するが、自国産業を守りたいとの思惑も見え隠れする。再編の行方は新時代の経済同盟の試金石となる。

キオクシアは27日、日米をオンラインでつないで取締役会を開いた。本来は新規株式公開(IPO)に向けた東京証券取引所への上場申請を諮る予定だったが見送った。

IPOは2020年に東証の承認を受けた。米中対立による収益悪化もあり直前で延期したが、再申請を目指している。

ただIPO以外の選択肢も検討している。それがWDとの合併案だ。背景には日米の政府レベルの構想が存在する。

4月16日、ワシントンで開いた日米首脳会談。台湾問題などがテーマとなったが、もう一つの主題は半導体だった。米政権は日米欧で最先端半導体を共同開発する「多国間基金」の創設を提案。バイデン大統領は記者会見で「サプライチェーンで日米の協力関係を拡大する」と宣言した。

米政権が日本に半導体分野での連携を求めるのは、ハイテク分野で世界市場を席巻する中国に対抗するためだ。米半導体企業の多くは工場を持たないファブレス。米国の世界生産シェアは1990年の37%から20年に12%に低下、供給網の中国リスクが高まっていた。

バイデン政権は半導体生産への補助金などに500億ドルの巨費を投じる支援法案を検討。先端半導体の米国生産に資金を投じ、メモリーのような汎用半導体は日本や韓国など同盟国からの調達を増やす方向で検討する。

首脳会談と時を同じくして、WDとキオクシアの経営統合案の検討が進んだ。バイデン体制で加速する日米半導体連携の第一歩との位置づけだ。

「キオクシアを買収したい」。今春、WDのデイビッド・ゲクラー最高経営責任者は新型コロナウイルス下の日本を何度も訪れていたという。ハードディスク駆動装置(HDD)大手のWDは16年にサンディスクを買収してメモリーに参入した。キオクシアと統合すればシェア首位の韓国サムスン電子に匹敵する。

のみ込まれることへの拒否感があるキオクシアは「我々が主導権をとる形でどうか」と返した。売却資金で株主還元したい東芝や米投資ファンドのベインキャピタルなど大株主は、現金化できるIPO志向が強いとみられ、一旦は頓挫した。

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ただその後も交渉自体は続いた。キオクシアと株式価値を対等にした合併、新会社の取締役は半々など譲歩が進んだ。

その中で残ったのが「本社所在地」という壁だった。WDは税負担などの面から米国籍を主張しているとみられる。

半導体産業の再興を目指すのは日本も同じ。日本メーカーの世界シェアは19年に10%まで下がり、国内需要の64.2%を輸入に依存する。経済産業省は安保上の懸念がない国のメーカーの工場を呼び込もうとしている。

経産省内では両社の統合について、工場や高付加価値の研究開発機能を残すことは譲れないとの意見が多い。5月に発足した自民党の議員連盟「半導体戦略推進議員連盟」(甘利明会長)の関係者も「対等出資で日本国籍も残るなら歓迎」と、本社が米国籍は受け入れがたいとの考えを示す。

日米は生産を台湾に依存する。先端ロジック半導体の生産能力の9割超、半導体全体でも2割を台湾が占める。中国が軍事的圧力を強めるなか、対策は不可避だ。

中国は半導体の国産化比率を7割に引き上げるため、10兆円規模の補助をしている。米国半導体工業会は先端工場の建設・運営コストは中国が3割安く、半分が公的資金に起因すると分析する。

各国は兆円単位の支援で生産拠点の誘致合戦を繰り広げる。開発などを後押しする日本の基金の規模は2000億円にとどまる。国家間競争の巻き返しは簡単ではない。

(山下晃、江渕智弘、江口良輔、ワシントン=鳳山太成)

 

 

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