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ゴッホ 新イメージ

芸術思想史家 木下長宏

Nikkei Online, 2020年6月18日

(1)「ひまわり」

ゴーギャンがアルルへ来て共同生活をしようという話が現実味を帯びてきた頃。ゴッホは、弟のテオにこんな手紙を送った。

「日本の芸術を研究していると、これぞ哲学者という人間に出会う。彼は何をして時を過しているのか。一本の草の芽の研究をしているのだ。この草の芽が、彼にすべての植物、すべての季節、人間の偉大な姿を描き出させる。そうして生涯を送るのだが、人生はあまりに短い。これこそ、本当の宗教というものではないか。こんなに単純で、自分自身が花であるかのように、自然の中に生きることこそ」

この手紙の一節は、そのまま彼の絵画宣言となる。それからというもの、ゴッホは「草の絵」を色々と試みることになるのだ。

「ひまわり」連作もその一つだ。

黄色い背景に輝くようなひまわりの大輪が花瓶に溢(あふ)れ、一見、生命力を謳歌する印象を受ける。

よく観(み)ると、15本中6本は花弁(はなびら)を落とし、他の9本はうなだれている。

小さな芽が大きな花を咲かせ、やがて枯れていく。草の生命(いのち)の物語がここに描き込まれ、そんな姿に、ゴッホは「日本の哲学者」の一生を重ねた。

(1888年、油彩、ロンドン・ナショナルギャラリー蔵)