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Nikkei Online, 2017/8/28 8:25
今夏は北日本や東日本で記録的な日照不足や長雨に見舞われた。北海道の北にオホーツク海高気圧が発達し、冷たく湿った風が流れ込んで雨や曇りの日が多くなったからだ。上空を吹く偏西風(ジェット気流)の蛇行で、この高気圧が居座りやすかった。ユーラシア大陸北東部の積雪が少なかったことや欧州の猛暑との関連が指摘されている。南の太平洋高気圧が弱いことも影響した。
仙台市では、7月22日から8月26日まで36日間も続けて雨が降った。夏の時期としては観測史上最も長い。東京でも、8月に21日連続で雨を観測した。
日照不足はかなり深刻だ。仙台では26日までの30日間で46.4時間しか日照がなく、平年の3分の1ほどだ。東北地方太平洋側の各地で、30日間の日照時間が平年の4割を下回っている。関東地方でも各地で半分ほどだ。秋に収穫を迎えるコメなど農作物への影響が懸念される。
気象庁は天候不順をもたらした原因を7月末に発生したオホーツク海高気圧が1カ月近く居座ったことだと分析する。この高気圧は梅雨のころに発生して、8月になると消えることが多い。しかし、いったん発生して居座ると「やませ」と呼ぶ冷たい北東の風が吹き込み、北・東日本は曇りや雨の日が増え、気温も下がりやすい。
記録的な冷夏だった1993年や2003年も、オホーツク海高気圧の勢力が強く、長い期間とどまり続けた。今夏も、10年に1度現れるかどうかの冷夏になりそうだ。
記録的な日照不足で稲作への影響が懸念される
(17日、宮城県名取市)=共同
オホーツク海高気圧を強めた直接の原因は上空を流れる偏西風(ジェット気流)の蛇行だ。日本の付近では、高緯度を「亜寒帯ジェット気流」、中緯度を「亜熱帯ジェット気流」と呼ぶ2つの偏西風が流れる。このうち北を流れる亜寒帯ジェットが東シベリア付近で北へ山が盛り上がるように蛇行すると、その南側にあるオホーツク海高気圧が強まりやすい。
亜寒帯ジェットを蛇行させた要因はいくつかある。国立極地研究所の猪上淳准教授は、中国北東部やロシア極東南部などで4月の積雪が少なかったことに注目する。雪が少ないと、地面に日光が当たって暖まりやすい。一方、北極海沿岸には例年より積雪が多く残っていた。南北の気温差が大きくなると、速度が増して大きく蛇行しやすくなるという。
東京大学の中村尚教授は東欧に猛暑をもたらした高気圧の影響を指摘する。03年の夏も、冷夏だった日本とは対照的に欧州は記録的な熱波に見舞われた。
8月上旬、セルビアやルーマニア、ウクライナでは、高気圧に覆われる状態が続き、日差しが強く気温が上がった。亜寒帯ジェットが大きく蛇行し、その影響は東へ伝わった。結果として、亜寒帯ジェットが東シベリア付近で北へ蛇行し、オホーツク海高気圧を強め、その状態が持続するように働いたとみる。
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■ 太平洋高気圧は弱く
北・東日本の天候不順は太平洋高気圧が弱かったことも大きい。いつもの夏は日本列島をすっぽり覆い、晴れの日が多くなる。今夏は張り出しが弱く、オホーツク海高気圧からの冷たい風の影響を受けやすくなった。
こちらも偏西風の蛇行の影響が指摘される。中緯度の上空を流れる亜熱帯ジェットが平年よりも南に偏った。この結果、風の流れが太平洋高気圧が日本付近に張り出すのを押さえ込んだ。
フィリピン沖の海域で大気の対流活動が不活発だったことも大きい。赤道付近の水温は高く、上昇気流が強まりやすい。上昇した空気は北へ向かい、下降気流となって太平洋高気圧を強める。暑い夏はフィリピン沖での対流活動が活発だ。
今夏のフィリピン付近の海水温は平年よりも高かったが、なぜか上昇気流は弱かった。日本大学の山川修治教授は日本の南方で海水温が高かったためとみる。「海水温の高い海域が広がったことで日本の南の海上で下降気流ができにくくなり、太平洋高気圧が強まらなかった」と分析する。
昨春まで続いた史上最大級の「スーパーエルニーニョ」の影響とみられる。エルニーニョは太平洋の東側で海水温の高い状態が続くが、このスーパーエルニーニョではカリフォルニア沖や太平洋中部など広い範囲で水温が上がった。山川教授によると、この温かい海水が日本へ流れ込んだ可能性があるという。