1000倍強い雷「スーパーボルト」 発生の謎に迫る新発見

2019年2月27日、マルタの首都バレッタで嵐が起きたとき、聖エルモ砦(とりで)の近くに雷が落ちた。
通常の稲妻の1000倍を超えるエネルギーをもつ「スーパーボルト」は地中海、北東大西洋、
そしてペルーとボリビアの高原アルティプラノに集中している。
(PHOTOGRAPH BY DARRIN ZAMMIT LUPI, REUTERS/REDUX)

雷鳴や稲妻はいくつもの科学的な疑問を生み出してきた。多くの疑問が今もなお残るなか、地球上で最も強力な雷はどのように発生するのか、という特に重要な謎に、最新の研究が答えを出した。

「スーパーボルト」と呼ばれる稲妻は、通常の稲妻の1000倍を超えるエネルギーを放出する。この言葉は、1977年に学術誌「Journal of Geophysical Research」に発表された画期的な論文から生まれた。スーパーボルトは雷全体のごく一部にすぎないが、その極端な性質は雷の仕組みを探る助けになる。

2023年9月19日付けで「Journal of Geophysical Research: Atmospheres」に発表された最新の研究論文では、雷雲の「帯電域」が地球の表面に近いと、稲妻のエネルギーが劇的に増加することが示された。

「この相関関係に気付いたとき、私たちは目を見開きました。これはすごいことだと思いました」と話すのは、研究を率いたイスラエル、エルサレム・ヘブライ大学の物理学者アビハイ・エフライム氏だ。「このような発見をする喜びこそ、すべての科学者が夢見ていることです」

雷雲は大きいものでは高さが18キロにも達し、下層から上層までの温度の幅が広い。その中では、強い上昇気流と下降気流によって氷や水が互いに衝突し、正や負の電荷を帯びる。この現象が起こる領域を、今回の論文では「帯電域」と呼んでいる。

「稲妻が発生するには氷が必要です」とエフライム氏は話す。「氷ができるのは氷点下ですから、0℃の線が帯電域の下限になります。この帯電域のどこかで稲妻が発生します。そして、帯電域と海面や高原の地表との距離が近いと、エネルギーがはるかに大きくなります」


発端となったある疑問

エフライム氏の研究は、2019年9月に同じ学術誌に発表された研究がきっかけとなった。この研究では、スーパーボルトが世界の特定の地域に集中する傾向があることが示された。それは、地中海、北東大西洋、そして、南米のアンデス山脈のうちボリビアからペルーにかけて広がる、地球上で最も高い高原の一つである「アルティプラノ」だ。

「この3地域に何があるのだろうと考え始めました」と氏は説明する。「なぜほかの場所ではいけないのだろうかと」

エフライム氏らはその答えを求めて、2010〜2018年に発生した落雷の正確な時間、場所、エネルギーがわかる電波雷検知器のデータを集め、分析した。そして、陸地や水面の標高、帯電域の高度、雲の底と頂点の温度、エアロゾルの濃度などのデータも集め、発生した雷をめぐる状況を把握した。

2023年8月5日、クロアチア、マカルスカ沖のアドリア海に雷が落ちた。
ほとんどの雷は陸地に落ちるが、スーパーボルトの大部分は地中海や北東大西洋などの海上で発生する。
(PHOTOGRAPH BY MATKO BEGOVIC, PIXSELL/XINHUA/GETTY IMAGES)

エフライム氏は以前、エアロゾルが落雷を活性化させることを確認していたため、当初、スーパーボルトの発生に一役買っているかもしれないと考えていた。だが結局、エアロゾルは稲妻の発生頻度には影響を与えていたが、強さに関しては大きな役割を果たしていなかった。むしろ、稲妻のエネルギーに影響を与えているのは、雲の帯電域と地面や海面との距離だった。

「スーパーボルトに関する研究の前進は興味深いことです。なにしろスーパーボルトは非常に珍しくて、追跡が困難ですから」と、米ロスアラモス国立研究所の大気科学者マイケル・ピーターソン氏は話す。氏は今回の研究に参加していない。

ピーターソン氏は、特にアンデス山脈では、雷雲の帯電域と地面との距離が近いほど強い稲妻が発生すると考える十分な理由があるものの、この現象を説明するメカニズムはあくまでモデルに基づいていると指摘する。気象レーダーや光学的測定の情報がなければ、雷雲で起きている小さなスケールのプロセスを解明するのは難しいと氏は述べる。

「スーパーボルトは発生頻度がとても低く、おそらく年に数回ほどしかないため、解明が難しいのです。海で起こるものによって、相関関係か因果関係かがわかるかもしれません」とピーターソン氏は話す。「(スーパーボルトが)どのように発生するかについて、私たちは出発点となる基礎をあまり持っていません。今回の研究がその一つをもたらしてくれることを願っています」


これから増えるのか、それとも減るのか

エフライム氏によれば、スーパーボルトの原因を解明することは、それらが社会に与える影響を判断するうえで重要だという。

「直接的な影響としては、私たちが利用しているインフラ、風力発電機、船舶、航空機などに対するリスクがあります」とエフライム氏は説明する。「平均的な雷であれば、ある程度まで耐えられますが、スーパーボルトは、これらの金属を溶かしたり、深刻な損傷を与えたりする恐れがあります」

地球温暖化がスーパーボルトの活動に及ぼす複雑な影響はまだ解明されていないが、将来、重点的に研究される可能性が高いとエフライム氏は考えている。

氏は、地球が温暖化するにつれて大気中の湿度が高まると、帯電域がより高い高度に形成され、スーパーボルトの発生頻度が下がる可能性があると指摘する。逆に、気候変動によって風やジェット気流が変化すれば、冷たい空気が赤道付近まで流れ込み、暖かく湿った空気と衝突した結果、帯電域がより低い高度にでき、スーパーボルトの発生頻度が高まる可能性もある。

「何が何に影響するのかがまだはっきりしていないため、とても難しい問題ですが、モデル化できるものであることは確かです」と、エフライム氏は続ける。「それこそが、私たちの研究が与えたインパクトだと思います。私たちはパズルの大きなピースを見つけました。この情報は今後、全球モデルに組み込むことができます」

文=AVERY SCHUYLER NUNN/訳=米井香織
(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで10月15日公開)


 

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