温暖化にらみ企業は対応策 サッポロは研究拠点北上

Source: Nikkei Online, 2024年11月23日 5:00

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首都圏でも4度シナリオで浸水が現状より0.5メートル以上深くなる場所がある。
現状から4度上昇する場合で、浸水の深さがどの程度深くなるかを示す想定マップ
(インターリスク総研提供のデータを基に日経分析)

欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によると、2024年1〜10月の地球の平均気温は産業革命以前より約1.6度高い。温暖化にともなって猛暑や洪水など極端な現象が頻発する中、企業はプラス2度やプラス4度の未来に備えて対策をはじめている。


2080年の洪水影響、
日本の3%超の地域で1メートル以上の浸水リスク

10月、200人超が死亡する洪水がスペインで発生した。地球温暖化が洪水発生の一因とされる。日本でもゲリラ豪雨などが頻発するなか、浸水リスクや洪水リスクに対して企業の関心が高まっている。

「過去最悪」とされるスペインの洪水の後、掃除をする消防員=ロイター

ITサービスのBIPROGYはこのほど国内外の110カ所ほどの拠点で、産業革命前からの世界の気温の上昇幅が1.5~2.0度未満になるシナリオと4度に達するシナリオの洪水リスクを算定した。MS&ADインターリスク総研(東京・千代田)のサービスを利用したもので、定量的な分析を実施したのははじめてだ。

2030年や50年のリスクをみたところ、いずれのシナリオでも、洪水による稼働停止や縮小稼働の影響を受ける同社の国内拠点では平均で「数時間程度」と、計算上は1日にも満たなかった。海外の拠点では影響はほぼなく、事前に心配していた東京・豊洲の本社も「想像よりは」低い見込みだった。

BIPROGYの沢英恵・環境・社会事業統合室室長は「計算上とはいえ、拠点ごとにリスクの有無を把握できたことは大きかった」と話す。影響の大きそうな拠点から優先的に対応策を練るため、業務プロセスを洗い出しはじめた。

バンコク都心部の北側で現状より深くなる場所が広く分布する(インターリスク総研提供のデータを基に日経分析)

インターリスク総研は世界を約500メートル四方のエリアごとにわけて、リスクを分析している。世界の気温上昇が目標とする1.5度未満を突破して、2度前後になる「2度シナリオ」や4度上昇する「4度シナリオ」になると、東南アジアや東アジアでは多くのエリアで浸水被害が深刻化する。

ベトナムではハノイ周辺で4度シナリオで浸水が深くなるエリアがある(インターリスク総研提供のデータを基に日経分析)

日本企業の立地も多いバンコク。2度シナリオや4度シナリオになると、山間部に近い郊外や河川の周辺のエリアで浸水リスクが高まる。海岸線から山までが比較的近いハノイでも浸水域がじわりと広がる。

首都圏や札幌では4度シナリオになると現状より浸水が深くなる場所が比較的広く分布する
(インターリスク総研提供のデータを基に日経分析)

日本も洪水による浸水拡大や大規模洪水の頻度増のリスクが他国より大きく高まる地域だ。国内の約35万エリアを分析すると、「2度シナリオ」では、2080年には約3%のエリアで現在大規模な洪水が起こった際に予測されている浸水の深さよりも、1メートル以上深くなるリスクがあることが分かった。「4度シナリオ」では約14%のエリアで同様に浸水が深くなる見込みだ。


遮熱性塗料や異常気象対応の食物など適応策相次ぐ

事業活動にも多大な影響を与える気温上昇。企業も適応に動き始めた。

地球に降り注ぐ太陽による高熱を、根本的に逃そうとする技術も進展する。大阪ガス発スタートアップのSPACECOOL(東京・港)は太陽が当たっても表面が暖まりにくい主力のシート製品で建物分野に進出した。実証事業も含め累計2桁台の受注を重ねる。9月上旬にはネッツトヨタ埼玉(さいたま市)の熊谷市のショールームの屋上に導入。屋上の表面温度は近隣道路の路面温度より約20度も低く抑えられた。

大林組AGCグループなどは、近赤外線のみを跳ね返す顔料を2000年代に開発。長持ちする機能を加え、遮熱塗料として製品化した。工場の屋根の表面に塗っておけば、気温が35度の場合で表面温度を8度ほど抑えられた。特に生産設備をもつ顧客が効果を実感し、追加依頼するケースが多いという。

自然や天候に左右されざるを得ない食品・飲料各社は作物の防衛策を相次ぎ打ち立てる。

サッポロビールは24年春、群馬のみだった大麦の研究拠点を北海道・上富良野に新設した。異常気象による水被害などに対応する品種を開発し、畑で定着を目指す「育種」を北海道で進める。

長雨の被害をうけた大麦。収穫前に芽が出てしまう現象が起こっている

大麦の研究を30年以上担ってきた木原誠・高度専門研究員は、「会社人生で初めて」群馬から北海道に赴任。このほど長雨による大麦の被害を克服する新たな品種を開発した。「現地で研究員が直接育種し、開発のスピードアップと新品種の定着を図りたい」と意気込む。

カルビーは、少雨による病害虫に抵抗できるようジャガイモの品種改良を急ぐ。こうした品種の調達比率で25年に50%、30年に100%を目指す。開発を担うカルビーポテト(北海道帯広市)の田崎一也社長は「高温でも雨が十分降れば問題は少ない」と話すが、国内は灌漑(かんがい)設備を持つ畑が多くないため「品種改良で対応するしかない」という。

マルコメは温暖化による収量減に備えて味噌汁向けのアオサの陸上養殖を始めた

水産資源も同様だ。

日清食品ホールディングスはカップヌードルに使う材料でもあるエビの漁獲可能量が、4度シナリオで25%から50%の減少となると分析。漁場まで追跡調査してサプライヤーの状態を確認している。マルコメは温暖化で収量不足が見込まれ、需要増も追い打ちをかけているアオサの陸上養殖に成功。このほど出荷をはじめた。

環境NGO(非政府組織)の英CDPは13日、世界の大企業は23年時点で気候変動に対応することなどで5兆ドル近くの潜在的な利益があるとの推計をまとめた。5年前の2倍超の水準で、気候変動への対応や適応が利益にもつながることを示している。日本の企業も対応はまったなしだ。

(猪俣里美、桜木浩己、高橋佑弥)



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