Nikkei Online, 2020/10/10 2:00
異常気象の原因をついに研究者が突き止めた。自然の複雑さと向き合い、いくつかの現象について、ようやく「確証」を得るところまでこぎ着けた。ずっと決着をつけたかった難題の解明に光が差してきた。
オーストラリアの大規模な森林火災=ロイター
A「猛暑や豪雨は地球温暖化のせいですよね」
研究者1「そうとは限りません」
B「地球が温暖化しているから、異常気象が増えていますね」
研究者2「温暖化の影響が無くても、異常気象は起こります」
C「異常気象と温暖化には因果関係があるのでしょうか」
研究者3「それぞれの異常気象の原因が温暖化だとは言い切れません」
2020年のロシア・シベリアを襲った熱波や18年の日本の猛暑――。異常気象が起きる度に研究者は説明に困っていたと推察する。歯切れが悪いと非難するのは見当違いだ。猛暑や豪雨など個々の異常気象と温暖化の関係は、わからないと返答するのがこれまでは正しかった。
ところが最近、猛暑や熱波について「温暖化さえなければ、この異常気象は発生しなかったはず」と明言する研究者らが現れた。異常気象と温暖化の関係をコンピューターで読み解く新しい手法が世界中で実を結びつつあるのだ。
新手法は「イベント・アトリビューション」と呼ぶ。気象庁気象研究所の今田由紀子主任研究官らは計算結果に目がくぎ付けになった。自らの研究で18年7月の異常な猛暑の原因に迫っていたときだった。18年は埼玉県熊谷市で国内観測史上最高の41.1度を記録した。
コンピューターでは「温暖化の影響がある現実の地球」と「温暖化の影響がない架空の地球」を再現した。「18年夏」以上の猛暑の発生確率を「温暖化がない」条件で計算すると「ほぼ0%」との結果が出た。「現実の地球」の確率は「19.9%」。この数値の差こそが猛暑と温暖化の関係を示唆する「証拠」だった。
「温暖化がなければ、18年7月の猛暑は起こりえなかった」。今田氏らが19年5月に科学誌で論文を発表すると、大きな反響を呼んだ。
2018年の西日本豪雨
世界の研究者も声を上げ始めた。20年のロシア・シベリアの熱波は、温暖化していない地球なら8万年間に1回未満の頻度だったといい、温暖化のために起きたとみられた。オーストラリアで19年9月から20年初めにかけて続いた大規模な森林火災は、英国などの研究者らが調べ、温暖化が影響したと発表した。
異常気象と温暖化の関係をひもとくのは、複雑さとの闘いでもある。自然は気まぐれだ。気温ひとつとっても、温暖化かどうかに限らず、ばらついている。ばらつきを膨大な回数の計算で封じ込めるのが新手法だ。計算を繰り返し、気温のゆらぎが山のような曲線のグラフに落ち着けば、しめたものだ。一定の傾向が見えてくる。
やっかいなのは、それでもばらつきを完全には制圧できないことだ。
1850年以降の工業化で約1度上がった現実の地球の計算結果をグラフに押し込んでも、ありふれた夏や暑い夏、寒い夏が顔を出す。
そこで研究者は知恵を絞った。「工業化後に温暖化ガスを出さない地球があったとしたら……」。ありえない地球を想像したのだ。「温暖化ガス」は「増えなかった」とし、「海水温の上昇」は「無かったこと」にする。温暖化とおぼしき要因を引き去った地球の振る舞いを計算する。「クールな地球」のグラフが「どれだけゆがんだか」をみて、個々の異常気象のリスクを温暖化がどれだけ押し上げたのかを推し量る。
専門家が例に出すのが喫煙と肺がんの関係だ。たばこを吸う誰かが肺がんだからといって喫煙が原因とは言いにくい。多くの喫煙者で肺がんを調べたら傾向がつかめるというわけだ。新手法のおかげで新事実も明らかになった。12年の九州北部豪雨は温暖化とは関係が無いとみられた。
難題の解明に光が差してきたのはコンピューターの進歩が大きい。従来のコンピューターは過去数十年分の気象データを扱うには力不足だった。そこに計算能力が整ってきた。60キロメートル四方ではなく、20キロメートル四方を計算する力も手に入りつつある。「日々の天気予報で温暖化の影響が分かるようになれば、気候変動の関心はもっと高まるはず」(今田氏)。対策も立てやすい。
大切なのは、全てをわかった気にならないことだ。温暖化以前の地球やその後の経緯を人類は完璧に理解しているわけではない。計算の出発点を誤ると、問題の複雑さがとたんに顔をのぞかせる。温暖化の現状認識を巡り、世界には意見の対立もある。観測データとの照合や計算結果の検証は今後も続く。
2021年6月29日 6:15更新
【シアトル=大島有美子】米北西部やカナダの西部を記録的な熱波が襲い、各地で相次ぎ高温記録を更新する猛暑に見舞われている。カナダ・バンクーバー近郊のリットンでは27日に46.6度を記録し、カナダでの過去最高気温を84年ぶりに更新した。米ワシントン州やオレゴン州では大半の地域で高温警報が出ており、山火事や干ばつへの懸念も深まっている。
28日の朝8時半、米西海岸シアトルのホームセンター「ホーム・デポ」には簡易型のエアコンを買い求める客が相次いだ。客の男性は「耐えられない暑さだ。今すぐ必要だ」と話し、170ドル(1万9000円)ほどする簡易型エアコンを2台購入した。店員は倉庫の在庫から商品を出していたが、すぐ売り切れになるという。緯度が北海道より北のシアトルでは夏でも気温は20度程度で、一般家庭にはほぼ冷房がない。シアトル近郊在住の男性は「今日はショッピングモールで暑さをやり過ごす」と話す。
シアトルでは27日に40度と遡れる1945年以来で過去最高気温を記録。オレゴン州ポートランドでも40度超となった。同地域を高気圧が覆い、その縁に沿って暖かい空気が流れ込んでいるという。米国立気象局(NWS)は「極めて危険で生命を脅かしうるレベル」として28日までに、同地域に高温警報を出している。カナダ環境省も「持続的で、危険で、歴史的な熱波」が数日続くとしている。
米CNNによると、警報の対象地域に住む住民は2000万人に上る。カナダではバンクーバー地域での多くの小学校などが28日、熱波により休校となった。ワシントン州では自治体やNPO(非営利法人)が設けた住民のための熱波からの避難スペースにおいて、屋内の収容人数を50%とする新型コロナウイルス対策の制限を一時的に撤廃した。
20年夏にはカリフォルニア州で、熱波に伴う大規模な山火事が発生した。地元当局からは「山火事が起きやすくなるほか、干ばつが深刻になる可能性が高まる」との警告が発せられている。
2021年7月3日 5:33更新
【ニューヨーク=吉田圭織】カナダ西部ブリティッシュコロンビア州当局は1日、このほど同国で史上最高気温を更新した村、リットンが山火事によって壊滅的な被害を受けたと明らかにした。同州によると村の住宅や建設物の大半が破壊された。
リットンを含む選挙区を代表するブラッド・ビス議員は1日、「村の中心を含む90%が焼失した」とフェイスブックの投稿で明らかにした。周辺の鉄道や高速道路も破損したという。
人口わずか250人ほどのリットンでは連日、カナダの史上最高気温を更新しており、6月29日には49.5度と同国史上で最高気温を観測した。
急速に広がった山火事で、同月30日にはリットンとその周辺地域に住む約1000人が避難を余儀なくされた。いまも避難勧告は続いている。リットンのポルダーマン市長はカナダ放送協会(CBC)のインタビューで「煙を目撃してから15分後には火が町全体に回っていた」と話した。
現時点で火事の原因は明らかになっていない。高温で乾燥が続くと枯れ葉の摩擦などで自然発火し、風で一気に火が広がりやすいとされる。電車が発火したとの説も出ており、州当局は調査を進めている。
同州では高温が原因とされる死者数も増えている。検視官によると、6月25日~30日に486人の死亡が報告され、通常の5日間で報告される死者数の約3倍にのぼった。