<<Return Home

黒潮、12年ぶり「ひ」の大蛇行 きっかけは九州沖

 黒潮が大きく南に離れる「大蛇行」が12年ぶりに発生した。最近の研究で、九州の南東沖で生まれる小さな蛇行がきっかけとなり、紀伊半島沖の海中の山の影響で蛇行が大きくなることがわかってきた。黒潮のように海流の大きく曲がった状態が長続きするのは世界的にも珍しい。大蛇行は漁業や気候に大きな影響を及ぼす。その発生や終息を予測できるようになるのだろうか。

 黒潮は通常、日本列島に沿って北東へと流れている。ところが、大きく南に膨らみ、ひらがなの「ひ」の字の形のように蛇行することがある。気象庁と海上保安庁は9月末、黒潮が8月下旬から大蛇行の状態になったと発表した。前回の大蛇行は2004年7月から05年8月まで約1年間続き、静岡県近海のシラス、三重県、和歌山県近海のカツオが不漁になった。

 海洋研究開発機構は観測データとコンピューター計算を組み合わせ、日本周辺の海流を予測している。美山透主任研究員は「今回の大蛇行は年明け以降も続く見通し」と長期化の可能性を指摘する。

 大蛇行は九州南東の海上で出現した小さな蛇行がきっかけだ。小蛇行は黒潮の流れとともに東へ移動する。今回は3月末ごろに九州南東沖で小蛇行が現れた。蛇行は途中で2つに分かれ、それぞれが東に進みながら数カ月かけて大きくなった。

 8月中旬には、東海から関東にかけての南沖で2つの蛇行が連なり、アルファベットの「W」の形ができた。その後、1つ目の蛇行は日本の東に抜けて消えたが、2つ目は東海沖で安定して動かなくなり、大蛇行になった。

 実は、小蛇行が出現しても全部が大蛇行になるわけではない。衛星からの観測やシミュレーション(模擬実験)を活用した研究から、大蛇行の発生メカニズムが明らかになりつつある。気象庁気象研究所の碓氷典久主任研究官によると、発生要因は3つある。

 まず九州沖へ向かう渦だ。太平洋では、九州のはるか東から西へと、大小の渦が次々とやってくる。小蛇行は直径数百キロメートルの反時計回りの渦が黒潮とぶつかって発生する。この蛇行の北側には反時計回りの渦ができる。南側に逆向きの渦があると渦はペアになって強め合い、蛇行が大きくなりやすい。

 2つ目が台湾沖の状態だ。台湾沖で時計回りの渦ができると、渦の内側にある温かい海水が黒潮の流れで九州沖まで運ばれる。その結果、小蛇行の南側で時計回りの渦が発達し、反時計回りと時計回りの渦のペアができやすい。

 黒潮はいったん大きく蛇行しても、消えてしまう場合もある。大蛇行が長続きするのは、黒潮に続く潮の流れである黒潮続流の影響が考えられる。これが3つ目の要因だ。

 黒潮は伊豆諸島を通過した後、房総半島の辺りで続流となって日本の東方へ離れる。伊豆諸島付近で黒潮は八丈島の北側に流れる場合と南側を進むときの2通りあり、大蛇行と通常時は北側を流れる。続流の経路が安定して動かないときは、黒潮は八丈島の北側を通りやすく、大蛇行が維持されるようだ。

 九州沖で発生した小蛇行は東へと移動する途中、紀伊半島の付近で急激に大きくなる。東京大学の日比谷紀之教授は紀伊半島から約200キロメートル南方の海底にある膠州(こうしゅう)海山という山の影響に注目する。この海山が存在しないと仮定して、潮の流れをコンピューター上で再現すると、小蛇行は大蛇行に成長しなかった。

 黒潮の小蛇行が膠州海山の付近を通過する際、流れがちょうどよく引っかかると蛇行の渦が強まり、蛇行が大きく発達する。海山の上層で黒潮の海水の塊がいったん圧縮された後、通り抜けて黒潮が上下に引き伸ばされることで渦の回転が速くなるという。日比谷教授は「フィギュアスケートの選手が手を引き付けて体を伸ばすと、スピンの速度が上がる仕組みに似ている」と説明する。今回の大蛇行が発生する過程でも、小蛇行は膠州海山付近を通過した。

 黒潮の流れの変化は様々な影響をもたらす。大蛇行になると太平洋沿岸ではシラス漁が不振に陥り、カツオの漁場も変化する。また、東海から関東の沿岸では蛇行の渦の影響で潮位が高くなる。海面水温の分布が例年と異なるために低気圧の移動経路がずれ、関東で雪が降りやすくなるという研究結果もある。

 大蛇行にはまだ謎も多く、今回の発生過程には前回04~05年とは違う点もいくつか見つかった。海洋機構の美山主任研究員は「比較することで新しい発見が出てくる」と期待する。

(越川智瑛)