Source: Nikkei Online, 2023/5/24~2023/6/07
中世絵画史上最も美しい愛の告白場面である。本作が伝来する京都・高山寺は、建永元年(1206年)に、明恵(みょうえ)が華厳教学復興の拠点として開いた。
新羅の高僧義湘(ぎしょう)と元暁(がんぎょう)の仏道修行を題材とする全7巻のうち、義湘絵第2巻、唐の長者の娘善妙(ぜんみょう)が義湘に恋をした。画面では、伏し目がちに想いを告げる善妙と戸惑う義湘を、恋物語の一場面のように描く。2人の上方に、画中詩(がちゅうし)という説明文があり「善妙大師にあひたてまつりて、みつからの想をとくところ」と書き添えられている。
これに対して義湘は、仏法の説く愛に純粋な求道心(法愛(ほうあい))と、祖師や仏菩薩への憧れ(親愛(しんあい))の2種があり、前者が優れ、後者は劣ったものであると戒めた。
ただし、明恵の思想を色濃く反映する詞書(ことばがき)では、何者かを強く愛する心なくしては求道もあり得ないと、義湘に惹(ひ)かれた善妙の心も肯定する。明恵の周囲には、承久の乱で夫や家族を失った数多くの女性が尼となって集まっていた。義湘の声を通じて明恵が説く愛の道理は、彼女たちの心を強く励ましたことだろう。(13世紀、紙本着色、全7巻、31.7×748.3〜1712センチ、高山寺蔵)