Source: Nikkei Online, 2023/5/24~2023/6/07
時宗の開祖・一遍の没後十年にあたる正安元年(1299年)、その生涯を12巻に表した「一遍聖絵」が完成した。この絵巻は、一遍の遊行(ゆぎょう)の旅を通じて、時宗の教義確立過程を丁寧にたどる。
弘安2年(1279年)に信濃国小田切の里で偶然始まった、跳躍し、鉦(かね)を叩(たた)きながら集団で念仏を称(とな)える、いわゆる「踊念仏」は、その後の場面で何度も登場する。弘安7年(1284年)には、空也ゆかりの洛中市屋(いちや)の道場を復興し、48日間の踊念仏を興行した。
高床式の道場の中央、長身で褐色の肌の僧が一遍である。ところせましと踊念仏に専心する弟子たち、念仏の声、鉦の音、床を踏み鳴らす割れんばかりの足音。音の洪水が、遠い昔の空也の念仏をもこの場に招き寄せる。
道場の周囲には、この様子を一目見ようと、徒歩で、あるいは牛車で駆けつけた人々がひしめき合っている。仮設の台も設けられ、まるでアリーナ席のように腰を据えて見物する人々もいる。京都という都市のエネルギーが、一遍の叩く鉦によって吸い上げられ束ねられて、この場には、宗教的熱狂が渦巻いている。(1299年、絹本着色、37.8×802センチ、東京国立博物館蔵)