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秋さやけく(10)小茂田青樹「十二ヶ月図」より
 「十月」「十一月」

滋賀県立美術館主任学芸員 田野葉月

Source: Nikkei Online, 2023年10月6日 2:00

小茂田青樹「十二ヶ月図」より「十月」(左)・「十一月」(右)

明治時代以降、秋は展覧会シーズンだ。出品作は秋をテーマにしたものが多い。翌年のための準備を秋に開始し、展覧会の会期にも配慮して、画家はこの季節を題材に選ぶのだろう。

それら出品作と異なり、本作は床の間や卓上で鑑賞するために依頼した12面の色紙のうちの2枚。自然の観照に優れる小茂田(おもだ)青樹が晩年に手がけた花鳥画である。10月は苔(こけ)むす枯木に茸(きのこ)と蟋蟀(こおろぎ)、11月は紅葉に留まるキビタキで、いずれも手元で愛(め)でたい逸品だ。

青年期より東京を離れて制作に集中した青樹は、武蔵野の虫の声に慰められ、最も色彩に恵まれる晩秋を賞讃した。青樹は虫がその形態や色以前に声で認識されるため、不自然に写実描写するより日本画の象徴的表現がふさわしいと考えた。対象と自己の心を通わせる必要を唱えた青樹ならではの発想で、生物への親近感がある。

その作風は画家仲間たちから澄んだ小川にたとえられると同時に、「野暮(やぼ)ったさ」とも形容された。この両面性こそ魅力であり、静かな生命賛歌、冷静さと慈愛を兼ね備えた眼差(まなざ)しが青樹を稀有(けう)な存在にしている。
(1930年ごろ、絹本著色、色紙、各27.0×24.1センチ、野間文化財団蔵)