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世界を魅了 明治の刺繍(1)「孔雀図刺繍屏風」

北野天満宮北野文化研究所室長 松原史

Source: Nikkei Online, 2023年10月9日 2:00

Photo: The National Museum of Modern Art,Kyoto

明治期、華麗で繊細な画面で世界を驚かせた日本の刺繍(ししゅう)。細やかな感性が生んだ作品を紹介する。

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黄金に輝く羽を背負い眼光鋭く前を見つめる孔雀(くじゃく)。海を渡り、西洋の人々を魅了した近代日本の刺繍を代表する花鳥画の四曲一隻屏風である。

百年以上の時を経てなお輝きを放つ金糸は、洋の東西を問わず永遠の輝きで人々を魅了してきた。写実的な画面、立体感のある造形、絵筆ではなくあえて絹糸と金糸で表現される刺繍絵画の世界は、鳥の羽や動物の毛並みを繍(ぬ)わせれば右に出るものはいない。

作品の良しあしを決める要となるのが、孔雀の目だ。いかに羽が素晴らしく繍われていても、目が破綻すれば良い作品とはいえない。大型作品には多くの職人が関わり、草木が得意なものが草木を、羽が得意なものが羽を繍うという分業が行われてきたが、作品の要の目入れに関しては、わざわざ人力車(くるま)を仕立てて名人を迎えにやったとの逸話も残るほどである。

世界中どこでも行われる刺繍。その共通する技法で、まねのできない写実的で繊細な画面を作り上げた日本の技術に世界は驚いた。
(明治33〜43年、172×264センチ、京都国立近代美術館蔵)