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世界を魅了 明治の刺繍(4)
 「大礼服(マントー・ド・クール)」

北野天満宮北野文化研究所室長 松原史

Source: Nikkei Online, 2023年10月13日 2:00

文化学園服飾博物館「日本の洋装化と文化学園のあゆみ」展(11月13日まで)で展示中

驚くほど華奢(きゃしゃ)な肢体に長く華やかな刺繍(ししゅう)の菊花文様に彩られたトレーン(引き裾)。明治天皇の皇妃、昭憲皇太后の大礼服として仕立てられたドレスである。

刺繍の技術はもちろん最上級で、皇室の花である菊文様が、江戸時代の着物の刺繍と比べると随分と写実的な意匠で表されているのが、明治ならではである。

目をひくトレーンの長さは、なんと3.9メートル、幅も2.4メートル、重さはおよそ7キロに及ぶ。もちろん1人で歩くことはできず、このトレーンは専門の者が4人で裾を持ち、合わせて6人が付き添う形式だったという。

開国後、着物に慣れ親しんだ日本人の洋装化は一筋縄ではいかなかったが、それでも政府の旗振りのもと、男性の礼服・制服の洋装化に続き、上流階級の女性たちの洋装化も次第に進められた。

伝統的な刺繍や織物の技術を使ってドレスを仕立てた日本に対して、西洋においては、この時期、上流階級の女性たちの間で、着物型のガウンが大流行した。染織繍(そめおりぬい)で装飾された「キモノガウン」の意匠として一番人気だったのが、本作に代表されるような菊の文様であったという。
(明治20年代後半、文化学園服飾博物館蔵)