Nikkei Online, 2020/7/30 5:05更新
新型コロナウイルスの1日の新規感染者数が1200人を超えた。政府が目指す「感染対策と経済の両立」は、具体的な対応策が乏しいままでは頓挫しかねない。海外のように検査体制を整備した上で、地域や対象を絞った重点的な対策が求められる。
7月に入って新規感染者数は4~5月の緊急事態宣言時を上回る日が続いた。それでも政府は前回のような対応はとらない。「現時点で再び(緊急事態宣言を)発出し、社会経済活動を全面的に縮小させる状況にはない」。菅義偉官房長官は27日もこう述べていた。
政府は「感染者に重症者が少なく、医療の提供体制も余裕がある」と説明してきた。多くの人の命を左右する危機的な状況ではないとの判断だ。
再び緊急事態宣言を出して全国的に人や企業の活動を控えれば感染は抑えられる。だが経済や国民生活には打撃になる。国も地方自治体も感染対策と経済再開のはざまで悩んできた。
急激な感染増を受け、政府も重い腰を上げ始めた。西村康稔経済財政・再生相は26日、在宅勤務の比率を7割にするよう経済界に求めると表明した。大人数の会食の自粛も促した。緊急事態宣言下と同じ要請だ。
28日には飲食店などのクラスター(感染者集団)対策を公表した。31日には専門家による分科会で、自治体が対策をとる判断基準づくりに乗り出す。重症者数などの指標で自治体に対応を促す。
地域別、業界別などのきめ細かい対策は重要だ。とはいえ対症療法的に次々と示した策は国民や事業者に浸透していない。自治体や業界任せにも映る。5月25日に安倍晋三首相が「経済との両立」を表明して緊急事態宣言を解除してからもう2カ月。この間に感染の再拡大に備えた準備をしてきたようにはみえない。
政府は現状では医療体制は逼迫していないと説明するが、感染者が1000人を超えてさらに増え続けた場合に対処できるかは明確にしていない。PCR検査の体制も依然として不十分だ。
22日には国内旅行の支援事業「Go To トラベル」が始まった。専門家による分科会の尾身茂会長は29日の国会で同事業の開始判断の先送りを政府に申し入れたが受け入れられなかった、と語った。与党にも「アクセルとブレーキをどう踏んでいるか分からない」との声がある。
重症化リスクの高い年齢層への感染拡大が
懸念される(29日、東京都新宿区)
海外でも日本と同じようにいったん制限を緩和しながら感染の再拡大に見舞われる事例が増えている。経済活動を全面的に止めて社会が停滞した反省から、今回は制限をなるべく絞り込むケースが目立つ。
5月に経済活動を緩和した直後に感染者が急増した米アリゾナ州は、6月末にクラスターの舞台となることが多いバーやジム、映画館を再び閉鎖した。すべての店舗を「封鎖」するようなやり方はとらなかった。
感染拡大は一服し、1日の新規感染者は3千人を割り込んでピーク時の半分になった。米食品医薬品局(FDA)のゴットリーブ元長官は米メディアで「アリゾナで感染拡大を抑え込められれば、他の州にも参考になる」と指摘している。
米ニューヨーク州のクオモ知事は28日、店内営業ルールに違反したレストランやバー132軒を前週末に摘発したと明らかにした。日本でも「夜の街」はクラスターになった。そうした場所に厳格な措置をとった。
感染拡大が続く州から市民が戻ってきた際には2週間の自主隔離を求めている。その対象地域にイリノイ州やミネソタ州、ワシントンDCなどを加え、34州と2地域になった。感染につながる恐れがある経路は徹底して遮断する戦術といえる。
全面的な制限に踏み込むところもある。ベルギーは30日から家族以外で接触できる人数を、1世帯で原則週5人までに制限する。香港は29日から飲食店での食事を全面的に禁止し、公衆の場で集まることができる人数を最大2人にした。
感染が広がるほど、日常生活や経済に深刻な影響を与える制限をしなければならなくなる。日本もそうなる前に対応しなければ経済も国民生活も立ち行かなくなる。