春秋(8月1日)

Nikkei Online, 2021年8月1日 0:00

教育関係者からこんな格言を聞いた。「凡庸な教師はただしゃべる。 よい教師は説明する。 すぐれた教師は自らやってみせる。 そして、偉大な教師は心に火をつける」。米国のある文筆家が残した言葉だという。スポーツやビジネスの世界でも時々引用されるようだ。

▼教科書を棒読みするだけの授業は問題外。話し方や伝える内容に知恵を絞り、生徒の「やる気スイッチ」を入れる。志ある教師は、そのためにあらん限りの情熱を注ぐ。教室に限ったことではない。一方的に主張を押しつけることなく、言葉を尽くして相手を動かす。あるべきリーダーの姿にもつながるのではなかろうか。

▼空前の金メダルラッシュに列島中が沸くかたわらで、新型コロナウイルスの感染拡大は深刻さを増している。明日からは緊急事態宣言の対象地域が広がる。しかし、街角を眺めてもそれほどの切迫感は感じられない。行楽地や繁華街の人波は絶えず、飲食店の店頭で「お酒飲めます」の看板が酔客を誘う。どうしたことか。

▼「いましばらく慎重な行動を」「五輪はテレビで観戦してほしい」。記者会見での菅義偉首相のメッセージはこれまでの繰り返しが目立った。これで自粛疲れの心に火がともるとは、とても思えない。言うことを聞かない生徒が悪いのか。それとも教師が凡庸なのか。手をこまぬくうちに学級崩壊、とならねばよいのだが。

 

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