Nikkei Online, 2021年8月26日 5:16更新)
新型コロナウイルス感染拡大の「第5波」が全国に波及している。インド型(デルタ型)変異ウイルスが地方に広がり、43都道府県で新規感染者数が国基準で最も深刻な「ステージ4(感染爆発)」に達した。地方も病床逼迫感が強く、自宅・宿泊療養の充実を含む医療体制強化が課題だ。
25日は全国で2万4000人超の新規感染者が確認された。大阪府や宮城県、新潟県で過去最多を更新した。8月中旬以降、全国の新規感染者は2万人を超える日が目立つ。東京都の増加ペースに鈍化の兆しが出てきた半面、多くの地域で増加基調が続く。
日本経済新聞の集計によると、人口10万人あたりの直近1週間の新規感染者がステージ4(25人以上)にあたるのは24日時点で岩手、秋田、鳥取、島根を除く43都道府県。1日時点で17都道府県だったのが、3週間あまりで2.5倍に増えた。
厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」は25日、現状について「ほぼ全ての地域でこれまで経験したことのない感染拡大が継続している」との分析を示した。医療提供体制も「災害時の状況に近い局面」と指摘した。
アドバイザリーボードの資料によると、変異型の広がりを調べるスクリーニング検査で、9~15日に感染者の85%からデルタ型と同じ変異がみつかった。デルタ型の広がりが感染拡大ペースを加速させている。
1日あたりの新規感染者数の推移をみると、岐阜県は24日時点で307.43人(7日間平均)と1日時点の13倍に膨らんだ。三重県は11倍、広島県は6.5倍、宮城県も5.9倍に増えた。同じ期間に東京は5割増だったのに比べ、地方の増加ぶりが顕著だ。
広島県によると、お盆期間に大阪や東京から多くの人が県内を訪れたことが感染者増加の主な要因だという。お盆や夏休みで都道府県境をまたぐ人の流れが増加し、デルタ型の拡大につながった可能性もある。
厚労省の集計によると、23日時点で33都府県が病床使用率のステージ4に相当する50%を超えた。第5波が本格化する前の7月20日時点ではステージ4の都道府県はなく、1カ月あまりで病床の逼迫感が一気に強まった格好だ。
残りの14道県も病床使用率20%以上の「ステージ3」に相当し、感染者が今後急増すれば病床逼迫につながるおそれがある。病床確保や自宅・宿泊療養者への医療支援の充実はいまや全国共通の課題になっている。
新型コロナウイルスの感染者全員を入院や宿泊療養施設で受け入れる原則を掲げていた地方の自治体が見直しに動いている。感染力の強いインド型(デルタ型)変異ウイルスの影響で地方でも感染が急拡大しており、全員入院を続ければ病床が逼迫する恐れが生じているためだ。
政府が25日に緊急事態宣言の適用を決めた滋賀県は、40歳未満でほぼ無症状の感染者の自宅療養を認めるよう対応方針を切り替えた。原則として全ての感染者を入院か宿泊施設での療養で対応してきたが、足元の感染者数は県が4月に定めた最大想定を上回る状態が続く。入院が必要な症状の患者が増えるとみて方針転換した。県は最大で2600人が自宅療養になるとみている。
滋賀県と同様、25日に緊急事態宣言の適用が決まった岐阜県も、21日から自宅療養者が生じている。これまでは「自宅療養者ゼロ」を掲げ、医療機関や宿泊療養施設で受け入れてきたが「重症者、中等症以上の患者に備えてベッドを確保する必要がある」(古田肇知事)。島根県も自宅療養の導入を決めた。
先駆的な新型コロナ対策で知られる和歌山県も、9月から宿泊療養を初めて導入する。8月25日の新規感染者は85人と高い水準で、入院者数は過去最多の558人に達している。病床数は計560で、病床数に匹敵する入院者数となっている。
県は発症後5~7日が経過した無症状・軽症者を、医師の判断を経て宿泊療養してもらう。「全員入院の方が絶対にいい」としていた仁坂吉伸知事だが、見直しは「やむを得ない」と話す。
新たに「まん延防止等重点措置」の適用が決まった佐賀県は、地域の医師との連携を自宅療養に生かす。同県は「原則入院・ホテル療養」を見直し、お盆明けの18日から自宅療養を導入している。24日時点で対象者は454人。軽症・無症状で同居家族がいることが条件だ。ひとり暮らしの感染者は病状急変への対応が難しいため、ホテル療養としている。
県庁内に新設した「自宅療養支援センター」の看護師や県職員ら50人程度が、電話で健康観察にあたったり、パルスオキシメーターや市販の解熱剤などを届けたりする役割を担っている。同県は新型コロナワクチン接種でも早い段階から医師会などと連携し、全国的に高い接種率につなげている。自宅療養でも必要に応じて、地区の医師会に往診や電話診療などを依頼する。県担当者は「医師との連携が有効に機能するのではないか」と期待している。