Nikkei Online, 2021年9月14日 5:16更新
新型コロナウイルスの感染から回復後も、後遺症とみられる症状で日常生活に支障をきたす人が後を絶たない。感染が急拡大した「第5波」では働き盛りの患者も目立ち、休職を余儀なくされるケースも。後遺症外来を設けた医療機関もあり、診察にあたる医師は、症状に応じた適切な対処と情報を共有する仕組みづくりの必要性を訴える。
「会社に行こうとするとだるくて、まともに仕事できない」「頭の中に霧がかかったような『ブレインフォグ』に悩まされる」。新型コロナの後遺症に悩む患者向けに外来診療を行うヒラハタクリニック(東京・渋谷)には連日、こんな相談が寄せられる。昨年3月から今年8月までに2千人以上を診察。半数程度が30~40代の働き盛りだ。
高齢者のワクチン接種が進むなか、感染力の強いデルタ型のまん延で、働き盛りの世代でも感染が急増したことが影響したとみられ、「第5波」まっただ中の7~8月の患者数は多い日で100人に。オンラインによる診察待ちは長時間に及び、「朝3時まで診ても間に合わない」。平畑光一院長は焦燥感を募らせる。
同クリニックの患者の9割が訴える症状が倦怠(けんたい)感だ。中には「入浴後にドライヤーを持てない」「全身がなまりのようで指一本動かせない」といった重い症状もある。気分の落ち込みや頭痛、息苦しさなど複数の症状を併発し、休職を余儀なくされた現役世代の患者も多いという。
「目や鼻の痛み、頭痛が治まらず、つらいです」。9月上旬、邦和病院(堺市)の後遺症外来で、50代の男性会社員は和田邦雄院長に訴えた。7月下旬にコロナに感染。症状は治まったものの、体調不良が続き、9月末まで休職するという。和田院長は「必ず日常生活を過ごせるようになるから」と励ました。
同病院は今年4月に後遺症外来を新設し、これまで200人以上を診察。患者の多くが20~50代の現役世代といい、和田院長は「不安を抱える患者にとって、診察を受けて安心感を得ることも早期回復につながる」と説く。
後遺症に悩む患者の支援が急務となるなか、大阪府は7月、後遺症に関する電話相談窓口を開設した。9月上旬時点で約60の医療機関と連携し、症状に応じた診療科を紹介。問い合わせが相次いだため、府は窓口の回線を増やすなどの対応を取った。
奈良県は8月、県内保健所に後遺症の診察が可能な医療機関のリストを配布。埼玉県は10月にも、県内の8医療機関に専門外来を設けるよう調整中だ。一方で、西日本のある県では「新規感染者の対応に追われ、対応が難しい」との声もあり、地域によって対応にばらつきが生じている。
実際、後遺症外来を設置しているのはまだ一部の医療機関に過ぎず、医師らは少ない症例をもとに診察に当たっているのが現状だ。
8月に専門外来を設けた国立精神・神経医療研究センター病院(東京都小平市)の大平雅之医師は「医師同士で後遺症や治療法に関する情報を共有し、より多くの患者を診られる仕組みづくりが必要」と話した。
(武沙佑美、中川竹美)
新型コロナウイルスの「後遺症」の発症メカニズムは分かっていない。治療法は患者の症状に応じた対症療法が中心で、回復までの期間もばらつきがある。厚生労働省は自治体や医療機関などと連携し、実態調査を進めている。
同省が6月に公表した中間報告によると、コロナと診断されてから半年が過ぎた246人のうち、2割以上が疲労感や倦怠(けんたい)感、1割以上が息苦しさを感じていることが分かった。
東京都世田谷区は4月までに保健所に届け出のあった陽性者約9千人を対象に、後遺症のアンケート調査を実施した。9月6日に公表した速報値では、回答のあった約3700人のうち「後遺症があった」との回答は1786人で、全体の48%だった。
症状を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのが嗅覚障害(971件)で、全身の倦怠感(893件)、味覚障害(801件)、せき(616件)と続いた。区は10月までに詳細に分析し、後遺症治療に役立てる。
新型コロナの症状に関する大阪府の相談窓口では、7月に寄せられた208件の問い合わせのうち、40代が24.5%と最も多く、50代が20.2%と続いた。症状別では倦怠感(63件)、嗅覚障害(53件)、味覚障害(44件)、脱毛(40件)、呼吸苦(31件)だった。