Nikkei Online, 2022年4月21日 5:43更新
新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」による感染者急増で、回復後の後遺症に悩む人の増加が懸念されている。医療機関を受診した患者では、倦怠(けんたい)感や息切れといった従来型などと同じ症状だが、若年層で重い傾向がみられる。仕事復帰後に無理をして休職を余儀なくされるケースも出ており、仕事と治療の両立も課題となりそうだ。
コロナ後遺症の専門外来のあるヒラハタクリニック(東京・渋谷)によると、今年1~3月に訪れたオミクロン型に感染していたとみられる患者258人のうち、年代別では30代の29%が最多だった。次いで20代と40代がいずれも24%。
重症度合いでは、週半分以上休まなければならないほど重い人も30代が30%で最も多かった。
2021年末までに同クリニックを訪れた患者では、年代別でも重症度合いでも40代が最も多かった。平畑光一院長はオミクロン型の後遺症について「若い世代でも重い症状に苦しむ人がより目立つようになった」と指摘する。
東京都渋谷区のアパレル店員の男性(27)は3月中旬にコロナに感染。約1週間後に症状が回復し、その3日後に仕事に復帰してまもなく強い倦怠感に襲われるようになった。
頭の中に霧がかかったようにぼんやりした状態となり、後遺症外来を受診して代表的な症状の「ブレインフォグ」だと知った。医師からは休みながら仕事をするよう助言された。
世界保健機関(WHO)はコロナの後遺症について「少なくとも2カ月以上持続し、ほかの疾患による症状として説明できないもの」と定義する。症状は倦怠感、息切れ、頭痛、脱毛など様々ある。オミクロン型でも症状はこれまでと同じだが、仕事に影響するケースも多いという。
平畑院長によると、受診した人のうち会社勤めなどで休職を余儀なくされる割合は、オミクロン型では5割を超え、それまでの4割程度を上回っているという。
今年2月に後遺症の専門外来を開設した東京血管外科クリニック(東京・文京)の榊原直樹医師は「焦ってフルタイムで復帰し症状が戻ってしまう人もいる。仕事を再開するときには時短勤務から始めるなどペースが大事だ」と助言する。
国立国際医療研究センターが21年10月に発表した調査によると、コロナに感染した人の約4人に1人が、後遺症とみられる症状が半年後もあったと回答した。ただこの調査は約500人が対象で、これまでに大規模な調査結果は出ておらず、後遺症の全容は判明していない。
後遺症のメカニズムも分かっておらず、確立した治療法はない。コロナの治療費は感染症法に基づき国が負担する一方、後遺症の治療は自己負担を伴う。「他の患者に症状をうつす可能性がなく、他の病気の後遺症と扱いの区別が難しい」(厚生労働省担当者)との理由だ。
コロナ下で経済活動が徐々に戻りつつある中、今後は後遺症の患者が増えることも予想される。後遺症が長期間に及ぶ場合では、仕事をしながら治療を続けるケースもある。
東北大大学院の小坂健教授(公衆衛生学)は「コロナに感染して休んでいたことなどから、後遺症があっても無理に仕事を頑張ろうとする人は少なくない」と指摘。「周囲が理解を深め、患者が復帰後も治療に時間をかけられるような職場や学校が配慮した体制づくりや、自治体の相談体制の整備が求められる」と話している。
(高橋耕平、亀田知明)