若い世代の医療費が伸びている。1人当たりの年間費用の変化を2000年度から16年間でみると、65歳以上の高齢者は10%増だった一方、65歳未満は24%増えた。特に子どもは4割も伸びており、地方自治体の助成によって受診回数が増えたとみられる。医療費の公的負担の膨張を抑えるには、高齢化以外の要因についての詳しい分析も必要だ。(新井惇太郎)
自己負担を含む医療費を年齢層別に示した厚生労働省の統計によると、最新の16年度時点で75歳以上の後期高齢者は1人当たり年90万9600円だった。65歳未満の18万3900円の5倍だ。
だが、00年度からの増加率は若い世代ほど高くなった。75歳以上は9%増えたのに対し、45~64歳は16%増、15~44歳は25%増だった。14歳までの子どもは42%増と75歳以上の 4倍の伸びだ。 前期高齢者にあたる65~74歳は少なくとも00年度以降で区分の記載がない。
厚労省が3年ごとにまとめる患者調査の「受療率」では、1日に人口10万人あたり何人が入院や通院をしたかが年齢層別に分かる。 0~14歳の外来は17年に4536人で、 02年から29%増えた。 15~34歳は4%増。 これに対し、 35~64歳、75歳以上は3~5%のマイナスだった。
病院で受診する子どもが増え、医療費を押し上げた構図が見えてくる。 背景にあるのは子ども向けの自己負担の軽減だ。 医療保険制度では子どもの自己負担の割合は 00年度時点で 3割だったが、02年度に 3歳未満は 2割となった。 2割負担の対象は 08年度から就学前の子どもに拡大された。
一方、75歳以上では外来で1日530円、入院で 1日 1200円だった自己負担が 01年に 1割負担となり、現在もこの原則が維持されている。
子どもの医療費では、00年以降に自治体が独自に助成する動きも広がった。 厚労省によると、09年4月時点で通院費を15歳まで助成する市区町村は345だったが、18年4月には1007と3倍に増えた。 18歳までが対象の市区町村は2から541に急増した。
こうした助成は子育て世帯を支え、少子化対策にもつながる半面、過剰な受診の要因となることも否定できない。 足元では助成を見直す動きも出てきた。
兵庫県の三田市は中学生までの医療費を無償化していた政策を 18年7月から改め、小中学生の外来には 1日 400円までの自己負担を求めることにした。
医療費の伸びの抑制を巡る議論は、高齢者向けに集中しやすい。 金額で若い世代を大幅に上回っているほか、高齢化も急速に進んでいるためだ。
ただ、大和総研の神田慶司シニアエコノミストは「医療費の伸びのおよそ半分は高齢化以外が要因」と指摘する。 厚労省によると、15年度の医療費の前年度比増加率3.8%のうち、高齢化の影響は 1.0%分だった。
厚労省が高齢化以外の要因の一つに挙げるのは「医療の高度化」だ。
例えばインフルエンザの治療薬。 01年発売の「タミフル」は1日2回で5日間服用し、自己負担を含む薬剤費は2720円だ。 一方、18年に発売された「ゾフルーザ」は1回の服用で済むが、薬剤費は4789円(体重80キログラム未満の成人)とタミフルの2倍近い。
こうした高価な医薬や医療機器が現役世代の医療費を押し上げ、もともとの絶対額が大きい高齢者に比べて高い伸び率となった可能性がある。
もっとも、高度化が医療費の増加に対し、実際にどの程度の影響を与えているのかは、厚労省も把握しきれていないのが実情だ。自治体の助成の影響とともに踏み込んだ検証が欠かせない。