Nikkei Online, 2021年11月16日 4:00
世界の自動車メーカーが半導体不足に直面した中で、2021年7~9月期決算(国際会計基準)で純利益がこの時期としては過去最高になったトヨタ自動車。ただ出そろった主要自動車メーカーの決算を分析すると、車1台の純利益は米電気自動車(EV)大手のテスラに3倍近い差をつけられた。時価総額も15日時点でトヨタの34兆円に対し、テスラは3.4倍の118兆円だ。
トヨタの販売1台あたり利益は25万円。対してテスラは73万円で、1年前に比べ3.2倍だ。米ゼネラル・モーターズ(GM、20万円)や独フォルクスワーゲン(VW、18万)もテスラには遠く及ばない。
テスラはこれまで、米国や中国、欧州で温暖化ガスの排出枠(クレジット)を他のメーカーに売却した収入が利益の柱だった。ただ7~9月期の販売台数は24万台と、1年前より7割増え、車体価格も400万円台からと高級車が軸だ。販売も店舗を通さず、ネットで完結することが多い。
米ゴールドマン・サックスのマーク・ディレイニー氏はテスラについて「(クレジットに依存せず)自動車だけで最高益を達成しており、今後の収益性の高さが見込める」と評価する。半導体不足の影響を抑え、米中2工場の量産も軌道に乗ってきた。ソフトウエアの課金収入も利益として積み上がる。
QUICK・ファクトセットによると、テスラの7~9月期の粗利益率は27%に達する。安価な小型車も扱うトヨタ(19%)はおろか、傘下に高級車のメルセデス・ベンツを抱える独ダイムラー(21%)よりも5ポイント以上高い。
テスラの採算が良い要因の一つはソフトによる収入だ。車の制御ソフトをインターネット経由で高度化する「OTA(オーバー・ジ・エア)」を他社に先駆けて収益化した。自動運転をはじめとしたシステムを日々改良し、顧客から毎月の課金収入を得る。トヨタ幹部も「我々は安全性を重視しているとはいえ、この分野はテスラから学ばないといけない」と漏らすほどだ。
テスラの7~9月の純利益は約1800億円で、トヨタ(6266億円)の3分の1にも及ばない。それでも時価総額の差が大きいのは予想PER(株価収益率)がトヨタの11倍台に対して、テスラは170倍強とケタ違いだからだ。
SBI証券の遠藤功治氏は「EVメーカーとしての評価が半分、ソフト課金といった収益モデルへの評価が半分」と指摘する。いずれも客観的な評価は難しい水準ながら、両社の時価総額の差は将来への期待感の差がそのまま表れているとの見方だ。
先週、初の量産型EV「bZ4X」を公表したように、トヨタのEV戦略はここからスピードが上がる。25年にはEVを15車種に増やし、21年は9月までに1万4000台だったEVと燃料電池車(FCV)の販売を、30年までに年200万台に引き上げる計画だ。
ただトヨタは温暖化ガスの排出を抑えるため全体ではEVやFCVに限らず、ガソリン車やハイブリッド車(HV)も投入する。発電所のエネルギーバランスといった事業環境、車の生産から廃棄の過程までを考えて地域別に最適な車を提供すべきだという「全方位戦略」だ。
市場関係者から広く意見を聞く限り、証券アナリストや一部の投資家には評価の声がある。東海東京調査センターの杉浦誠司氏は「30年の200万台という目標は達成したうえで、トヨタの高性能EVの販売がさらに増えるとの期待が得られれば、トヨタ株は上昇の余地がある」と語る。
一方で海外投資家には「既存の車種の方がもうかるから、EVに否定的なだけなのでは」との懐疑的な見方が多い。
ピクテ投信投資顧問の糸島孝俊氏は「トヨタは現金を稼ぐ力と多くの雇用、部品会社を抱えるだけに(環境規制や電動車のトレンドが)どの方向に転んでも負けないための戦略に映る」という。東京証券取引所によると、現にトヨタ株の海外投資家の比率は21年3月末時点で21%。上場企業の平均30%や、輸送用機器セクターの平均26%を下回る。
量産型EVのbZ4Xは多目的スポーツ車(SUV)で生産台数や価格はまだ公表されていない。今後はSUV以外のEVの新車種発表も続くとみられる。さらに電池の調達や工場ごとの生産配分、主要国別の販売計画や具体的な発売時期といった話題が見込まれる。米市場では10日、EVスタートアップのリヴィアン・オートモーティブも上場した。EVを軸にした自動車株の売買にトヨタがどんな話題を提供するのか。評価が大きく変わる余地はある。