Source: Nikkei Online, 2024年2月22日 18:00
防衛省は今春にも民間の次世代通信技術を安全保障に活用するための計画をつくる。NTTが開発中の次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」を第1弾に想定する。ミサイル攻撃情報の早期共有や電磁波を使った新作戦などに生かす。企業の先端技術を防衛にいかす取り組みとなる。
IOWNは光通信技術で通信網を築く構想で、情報を電気信号に置き換えずに送信できるのが特徴だ。目標とする2030年度ごろに実用化できればデータ転送容量は現在の125倍、伝送の遅延は200分の1、消費電力は100分の1程度になるとされる。
防衛省はIOWNを高度な通信機能が不可欠な現代戦のインフラになると想定する。実用前の試験運用の段階から関与し、国防にとりいれる方策を探る。
従来より効率良く通信できるため無人機など電力消費の大きな装備を大規模に展開でき、電磁波の利用やサイバー防御もしやすくなると期待する。
敵の位置や動きを表す動画像データを即時に部隊で共有し作戦に反映できる。弾道ミサイルの探知・迎撃に関わる情報を送受信する精度と速さが向上し得る。
IOWNは現実世界を仮想空間で再現する「デジタルツイン」の技術向上にもつなげる構想だ。防衛省はデジタルツインによって防衛装備の状況を常に確認すれば故障の前兆を早く把握し、補修や交換を素早くできると予想する。
装備の設計時から仮想空間で使い方を試せば試作品の製作を省略でき、開発期間の短縮や製造コストの圧縮に結びつくと想定する。地形や敵の動きを仮想空間で表し、部隊がどう対処するかシミュレーションすることにも役立つと見込む。
次世代通信技術の活用計画は防衛省が23年8月に設けた推進委員会がつくる。防衛次官がトップを務め、防衛装備庁長官や自衛隊の統合幕僚長、陸海空の各自衛隊の幕僚長らで構成する。
検討する内容は①技術開発の調査・分析②防衛力強化に役立つ技術の特定・実証③技術を生かした防衛構想や運用方法の立案――の3つが軸となる。使えそうな技術の発掘から実用試験、その技術を活用した戦略の構築までを見据える。
防衛に先端技術を使うことで新たな研究開発や市場開拓を促し経済成長も狙う。防衛次官が省内に出した通達は設置目的を「民間技術の急激な進展を防衛力強化に活用する」と記した。25年度予算案の概算要求に関連費用を盛り込む見通しだ。
防衛省は民間技術を安保に活用するため複数の政策を同時並行で進める。昨年9月に始めたスタートアップとの意見交換会には無人機や電磁波、衛星、ロボットなどを扱う企業を招いた。防衛に使える技術を見つけて活用法を検討する。
24年度には軍民両用(デュアルユース)技術に関する新研究機関を都内に設ける。企業などの研究費を助成する新制度を始める。国立研究開発法人などアカデミア(学術界)と定例で意見交換する機会も探る。
米国防総省傘下の国防高等研究計画局(DARPA)が平時から民間技術の活用策を構想している仕組みを参考にする。「軍民融合」を掲げる中国に対抗できる能力を備えなければならないとの危機感がある。
各国政府は人工知能(AI)やドローンなどデュアルユース技術の安保分野への活用を進めている。日本も世界の潮流を意識した対応を急ぐ。