Apple経営陣の「新陳代謝」働かず、
4割が10年超在任 AI劣勢が鮮明


Source: Nikkei Online, 2025年7月12日 6:30更新

アップルのクックCEOは2011年に就任し、企業価値を高めた(8日、アイダホ州サンバレー)=ロイター

【シリコンバレー=中藤玲】生成AI(人工知能)開発で後手に回る米アップルに対し、経営陣の新陳代謝を求める声が高まっている。ティム・クック最高経営責任者(CEO)を含め経営陣の4割が今年で10年以上の在任になる。最高執行責任者(COO)が退任するなど重い腰を上げ始めたが、経営に新風を吹き込む人事を急ぐべきだとの見方が多い。

アップルは8日、ナンバー2であるCOO、ジェフ・ウィリアムズ氏が退任すると発表した。1998年に入社して調達畑を歩み、2015年からCOOとして製品開発やデザインチームも率いた。一時期はクック氏の後継とも目された人物だ。COOの後任にはアップルで約30年務めるベテラン幹部のサビ・カーン氏が就く。

アップルは1月、こちらも長年務めた最高財務責任者(CFO)が交代した。どちらの人事についても「サクセッションプラン(後継者計画)の一環」と説明した。相次いで幹部を刷新するのはCEO交代に向け、経営体制を整え始めたためとみられる。

あるアップル関係者は8月で就任から丸14年となるクック氏の後任選びが「取締役会の最優先事項になっている」と話す。

AI時代に革新生み出せず

アップルは新たな経営体制の構築に動き始めたが、そのスピードを巡って批判の声が出始めている。AI分野で後手に回っている現状が鮮明になってきたからだ。

「変化と混乱こそが、今のアップルに必要ではないか」。調査会社ライトシェッド・パートナーズのアナリスト、ウォルター・ピエシック氏らは9日のリポートに記した。「今は調達ではなく製品中心のCEOが必要だ」と調達畑のクック氏を暗に批判した。

クック氏は11年に故スティーブ・ジョブズ氏の後を継いだ。緻密で巧みなブランド戦略で収益を拡大し、売上高と純利益を3.7倍に育てた。だが、ジョブス氏のもとでアップルがなし遂げたような革新的な発明は生み出せていない。

いま、テック産業はAIにより、技術や産業構造のパラダイムシフトが起きている。クック氏の手堅い経営スタイルは、変革期においてはアップルの競争力低下を招きかねないとの印象を与えている。

24年6月に発表した生成AI機能の一部は、いまだ搭載できていない。クック氏のリーダーシップだけではなく、経営陣が固定化され、その新陳代謝が遅れてきたことを問題視する見方が強まっている。

経営幹部の顔ぶれ変わらず

アップル幹部の顔ぶれは長年同じで、経営陣の入れ替えはスローペースだ。執行の最高幹部12人のうち約4割は今年で10年以上の在任になる。最長なのがクック氏だが、サービス担当のエディ・キュー氏も今年で14年、ソフトウエアエンジニアリング担当のクレイグ・フェデリギ氏も13年になる。今年1月のCFO交代前の最高幹部人事は4年前に遡る。


米グーグルから引き抜いたAI担当幹部などごく一部を除けば、スマートフォン「iPhone」を軸としたビジネスモデルの構築に関わったメンバーが並ぶ。テック産業に起きた「スマホ革命」をけん引してきたメンバーがそのまま在任している。

長年、ともに最高幹部を務めてきた経営陣の年齢は約10人が60歳前後で同世代。新COOのカーン氏も59歳という。

ハーバード大ビジネススクールのデビッド・ヨフィー教授は「AIなど新技術に苦戦している現状では、経営陣の長期化と高齢化は、従業員にとっても市場にとっても良い兆候ではない」と話す。経営陣の入れ替えの必要性を指摘している。

4兆ドルの大台突破はNVIDIA

アップルの株価は年初来で1割以上下落した。一方、9日には米半導体大手エヌビディアが時価総額で世界初の4兆ドル(590兆円)をつけた。これまで2兆、3兆ドルを米企業で初めて超えたのはアップルだった。あらためてAI時代の主役交代を印象づけた。

アップルのAIチームを率いる責任者は米メタに引き抜かれたとも報じられている。組織の求心力も疑問視され始めている。

米テクノロジー大手のトップの在任長期化はアップルに限った話ではない。アップルと同様に創業者が現トップではないライバルをみると、グーグルの親会社、米アルファベットのスンダー・ピチャイCEOはグーグル時代も含めると在任10年になる。米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは11年だ。だが、そのなかでもクック氏は最長だ。

多くの企業トップにとって、在任が長くなるほど適切な後継者選びは難問になる。クック氏もその選択を問われることになる。米テック業界では、新CEO候補としてハードウエアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントのジョン・ターナス氏の名前が挙がっている。最高幹部では最年少の50歳とされ、エンジニアからも信頼が厚い。