ラピダス、2ナノ半導体の試作品初公開 
27年量産へ顧客開拓託す


Source: Nikkei Online, 2025年7月18日 12:57

ラピダスが披露した2ナノ半導体のウエハー。2ナノの動作確認に成功した(18日、北海道千歳市)

最先端半導体の国産化を目指すラピダスは18日、回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートル半導体の試作品を報道陣に初公開した。4月に稼働した北海道千歳市の工場で生産し動作を確認した。2027年の量産を目指し、海外の競合を追う。スタートラインに立ったが完成度を高めていけるかはラピダスの最大の課題の一つである顧客獲得の成否を占う。

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午後12時半から千歳市内のホテルにサプライヤーや顧客候補約200人を招いた。4月の工場稼働以来、千歳で開く初の公式イベントで、いわば開所式だ。小池淳義社長はイベント開始2時間前から受付に立ち、訪れた来場者を迎えた。

7月10日に2ナノのトランジスタ(半導体素子)の動作を確認した。小池社長はイベントの前に開いた記者会見で直径30センチメートルの金色に光るウエハーを披露し「顧客候補が十分に満足していただける動作性能を確認できた」と語った。東哲郎会長も「世界でもまれに見る異例の(工場立ち上げの)スピードに世界が驚いている」と話した。

ウエハーの試作品を公開するラピダスの小池淳義社長(左から2人目)と
東哲郎会長(左端)ら(18日、北海道千歳市)

22年8月設立のラピダスは、トヨタ自動車など民間8社が73億円出資する。国は累計1兆7000億円を支援し、25年度後半には1000億円を出資する。米IBMから設計技術の供与を受け、電子機器の頭脳になるロジック半導体の受託生産を目指している。

披露したウエハーはまだ必要な機能の一部を盛り込んだ途中経過だ。トランジスタの特性をさらに改善し、年内の完成を目指す。試作品が期待通りの演算能力や電力性能を示すことができれば、顧客獲得にも弾みがつく。量産までにさらに3兆円超の資金が必要とされ、その調達への影響も大きい。

年度内にチップ設計に必要な情報を入れた「PDK(プロセス・デザイン・キット)」の最新版を顧客候補に配る。顧客候補のメーカーはPDKを基にラピダスの技術を評価できるようになる。小池社長は「25年末には顧客の顔が見える」としている。

4月に工場が稼働した(北海道千歳市にあるラピダスの工場棟)=同社提供

24年秋に工場建屋がほぼ完成し、25年4月に稼働。「7月に試作ウエハーを世間に披露できないか」。小池社長の野心的な要望に、IBMのニューヨーク州の研究所から北海道に戻ったエンジニアたちの士気は高まった。

IBMの技術を再現すべく、技術者が24時間体制でシフトを組み装置の条件出しを進めてきた。「魂をこめてほぼ寝ないで試作品を流した」(小池社長)。現場の担当者は「日本の半導体を復活させたい、情熱のある人でないとラピダスに入るべきじゃない」と笑う。

ラピダスの社外取締役の1人は「当初は危惧していたが、スケジュールに大きな遅れは出ていない」と安堵する。

日本企業は2000年代前半までに半導体の集積度を高める微細化競争から撤退し、最先端半導体は台湾や韓国から輸入するしかない。ラピダスが量産を軌道に乗せれば、国内企業が人工知能(AI)データセンターや自動運転に使う半導体を安定調達できる環境が整う。

世界は先を行く。受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は25年後半に2ナノ品の量産を始め、28年には次世代の1.4ナノの量産にも乗り出す。韓国サムスン電子も年内に2ナノを、米インテルは1.8ナノの量産を開始するとしている。


中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)は5ナノの量産に成功した。米国やアジア、欧州のメーカーもSMICに製造委託しており、顧客獲得競争は激化している。

米調査会社オムディアの試算ではラピダスの現状の生産能力は12インチウエハー(基板)で月産7000枚程度。量産時には2.5万〜3万枚程度に増える。TSMCの主力工場は10万以上になるとみられ、規模ではかなわない。

小池社長は「米国の顧客は米中の分断を意識し、セカンドベンダー(代替の供給元)を必要としている」と話し、「GAFA」のような巨大テック企業の開拓にも意欲をみせる。


だが、TSMCは25年に世界で9工場を着工・稼働し、米アリゾナ州で28年に2ナノ半導体の量産を目指すなど台湾に偏っていた生産拠点を分散しようとしている。台湾依存を避けたい企業の受け皿となるというラピダスの意義の1つが揺らぎかねない。

ラピダスは18日のイベントを「カスタマーイベント」と呼んだものの、参加者はパートナー企業が目立ち、海外大手の顧客候補は限られた。この現実を見つめ、顧客獲得、量産、資金調達の3つの課題をクリアしていく必要がある。

つまり試作品やPDKの性能を高めて顧客を獲得し、量産の規模と歩留まり(良品率)を高める。実績を示して民間資金の調達を進め、政府頼みから脱却するということだ。

「最後にして最大のチャンスだ」。日本の半導体や製造業の関係者は口をそろえる。山積みの課題の先に、国内半導体産業の復権がある。

(向野崚、薬文江)