Source: Nikkei Online, 2021年10月19日 5:00
地方銀行の重荷となっているIT(情報技術)システムのコスト削減が待ったなしのなか、勘定系システムにこだわらない、多方面の共同化を志向する地銀も出てきた。地銀上位の群馬銀行だ。勘定系システムは自営を続けつつ、フィンテックなど戦略領域は他行との共同化に積極的だ。
群馬銀行は2020年12月、千葉銀行が中心の共同化陣営「TSUBASA(つばさ)アライアンス」に参加した。同アライアンスは日本IBMが支援し、事務やシステムの共同化、フィンテック関連サービスの開発などを参加行が共同で手掛ける。
まず群馬銀行は22年春、TSUBASAアライアンスのオープンAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)基盤である「TSUBASA FinTech共通基盤」の利用を始める。同じタイミングで個人顧客向けスマートフォンアプリも導入する。これは千葉銀行の「ちばぎんアプリ」を基にしてアライアンス参加行が共同開発するものだ。
TSUBASAアライアンスの特徴は勘定系システムの共同化を参加の前提にしない点にある。日本IBMの孫工裕史執行役員グローバル・ビジネス・サービス事業本部金融サービス事業部担当は「勘定系システムに縛り付けることはない」と話す。群馬銀行の井田繁美総合企画部デジタルイノベーション担当部長も「(導入するサービスの)選択は各行に任されている」と話す。
現在、群馬銀行は勘定系システムの共同化には参加せず、富士通と組んで同システムを自営している。とはいえ、漫然と自営し続けているわけではない。「体を小さくしておけば、将来の選択肢が増える」(井田担当部長)との考えで、18年4月から同システムのスリム化に本格的に着手している。
既に帳票は4000種類を2500種類まで減らした。最終的に当初比6割減となる1500種類にまで減らす。うち1000種類は情報系システムに移行し、勘定系システムには法定帳簿の500種類のみを残す。
事務や商品の見直しも進める。スリム化を本格化する直前の18年3月時点では勘定系システムのプログラム数は約1万3000本あったが、将来的に半減を目指す。
自営か、それとも共同化か。群馬銀行がこの決断を下すうえで念頭に置くのが、次々回のシステム更改のタイミングである29年だ。井田担当部長は「共同化も選択肢の1つだ」と語る。29年のシステム更改に合わせる形で、システム基盤のクラウド移行も検討課題になる。
富士通の地銀向け勘定系ビジネスの戦略も群馬銀行の決断に大きく関わる。富士通の同ビジネスは苦戦中で、現在の顧客は8行にとどまる。
そのうち、東邦銀行と滋賀銀行、みなと銀行、西京銀行(山口県周南市)、清水銀行の5行は他のITベンダーなどのシステムへの移行を公表済みだ。東邦銀行と西京銀行、清水銀行の離脱で、富士通の地銀向け共同システム「PROBANK」の利用行はゼロになる見通しだ。
富士通は「既存ユーザーの次のシステム更改に向けて、方向性を議論していく」(軸丸俊男第二ファイナンス事業本部エグゼディレクター)と話すにとどめる。
地銀の勘定系ビジネスを巡っては、NTTデータと日本IBMの2強の構図が鮮明だ。
日立製作所は静岡銀行と共同開発したオープン勘定系パッケージを武器にシェアを伸ばす戦略だが、同行で21年1月の稼働直後にトラブルが頻発した。同パッケージの採用を決めている京葉銀行は稼働時期を22年5月から23年度中に延期。投資額は従来の93億円弱から約108億円に膨らむ見通しだ。
SBIホールディングスが「地銀連合構想」の推進に向けて新生銀行にTOB(株式公開買い付け)を仕掛けるなど地銀再編は風雲急を告げている。銀行業務の基幹となるシステムを巡る戦略は地銀再編の行方を左右するほど重要度を増している。
(日経クロステック/日経コンピュータ 山端宏実)