Source: Nikkei Online, 2021年12月29日 5:27更新
政府の基幹統計の7割にあたる34調査でオンライン集計が進んでいないことが分かった。アナログな紙の調査は非効率なだけでなく、書き換えなど統計不正の温床にもなる。経済政策の基盤となるデータの収集・公開が不透明なままではデジタル社会の成長競争に取り残されかねない。
各省庁が2020年末時点で総務省に報告した内容を日本経済新聞が洗い出した。53の基幹統計のもとになる50調査を対象に調べた。
オンライン回答の比率が50%にも届かないのは34調査と、全体の7割を占めた。うち8調査は10%未満だった。1.3%の農業経営統計など農林水産省所管分が目立った。「高齢化が進んでパソコン操作に不慣れな人が多い」という。
今回、データの書き換えや二重計上が発覚した国土交通省の建設工事受注動態統計はオンライン比率が11%だった。導入から10年以上たっても事業者に浸透していない。担当者は「電子申請を強制すると調査票を出さない事業者が増える懸念があり、苦慮していた」と明かす。
役所ごとにシステムがバラバラで、入力の手順が煩雑なことも普及が進まない要因とみられる。中堅建設会社は「自社の受注管理システムのデータを国交省の様式にあわせて打ち替えるのは手間がかかる」と活用しない理由を説明する。
大和証券の岩下真理氏は「海外は企業側もデジタル化が進み、オンライン回答にも対応できる」と日本のデジタル化の遅れを指摘する。
公的統計をオープンデータとして国民が使いやすくする仕組みも整っていない。会計検査院は9月、政府のポータルサイトで検索やデータ抽出機能が使えない統計が8割に上ると指摘した。政府や企業がデータを知の源泉として駆使するデジタル社会の競争の土俵に日本は上がれていない。
米国や英国などの統計データは、第三者がコンピュータープログラムなどで自動収集しやすい様式で公開されているものが多い。日本の統計はファイル形式が不ぞろいだったり、人手の作業が必要だったり、使い勝手が悪い問題が残る。
一連の統計不正の背景として人的資源の不足も指摘される。基幹統計の3割にあたる16調査は集計・分析作業を担う職員が3人以下だった。建設受注統計は3人で、実質的には1人に都道府県経由の調査票回収から確認まで任せていた。省内では「慢性的な人手不足に陥っていた」との証言もある。
内閣官房によると国の本省の統計職員数は減少傾向が続いている。18年度は1470人で08年度比で1割弱減った。本来は様々な政策立案にかかわる重要な部門にもかかわらず適切な人員が確保されずに不正の温床になっていた可能性がある。
法政大の平田英明教授は「予算が減らされ、人手も足りずデジタル化は後回しになっているのが実情だ」と指摘する。各省の縦割りの弊害も踏まえ「デジタル庁が一元的に統計システムを整備すべきだ」と訴える。
デジタル化の遅れは統計に限らない。内閣府によると、行政機関が新たに作成・取得した行政文書のうち電子媒体で保有している割合は19年度で15%にすぎない。
国交省は今回、18年度以前の調査票を破棄しており、データの完全復元は難しい。国内総生産(GDP)への影響などの検証に支障をきたす。電子媒体で保管していればこうした事態を避けることができたはずだった。
厚生労働省の毎月勤労統計などの不正発覚を受けて、総務省の統計委員会は19年に公的統計の改革案をまとめた。データの適切な保存や管理が必要と指摘していた。建設受注統計の不正は政府の対応がおざなりだったことを示した。