Microsoft、検索に対話AI
 「ChatGPT」開発企業と組み

Source: Nikkei Online, 2023年2月8日 7:29更新

検索エンジン「Bing」を刷新し、AIとの対話を可能にする

【シアトル=佐藤浩実】米マイクロソフトは7日、検索エンジン「Bing」に対話のできる人工知能(AI)を搭載すると発表した。「ChatGPT(チャットGPT)」を開発した米オープンAIの技術を使い、知りたい内容に対して自然な文章で回答する。米グーグルが圧倒的なシェアを持つ検索エンジンの競争を変える狙いで、7日から順次利用できるようにする。

米シアトル郊外の本社で開いた発表会で新技術を披露した。検索窓に「最も売れている65インチのテレビ」などと打ち込むと、通常の検索結果に加えて、右側に対話AIによる回答を参照したリンクとともに表示する。そのままAIとのチャットに移行して「このなかでゲームに向くのは?」と尋ねたり、他の言語に翻訳した要約を作成したりすることも可能だ。

検索結果の右側にAIの回答を表示する。チャットに移行することもできる(7日)

ブラウザー「Edge」とも連動する。たとえば衣料品大手GAPのウェブサイトにある業績報告書を表示した状態で対話AIを起動し、要約を依頼すればポイントをまとめてくれる。AIに「ルルレモンと業績を比べたい」と尋ねれば、数十秒で比較表を作ることもできる。発表会に登壇したサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は「検索にとって新たな一日が始まる。新しいパラダイムになる」と述べた。

対話AIがウェブの「副操縦士になる」と話すナデラ氏(7日、シアトル郊外)

質問に対するたくみな回答で話題を集める「チャットGPT」の開発企業、米オープンAIと組んで新技術を開発した。検索エンジンと組み合わせることで、発売したばかりの製品など新しい情報も含めた回答ができる。担当者は「正しくない回答をするときもあるが、フィードバックを集めて正確性を高めていく」と話した。

インターネットで何かを調べるときに「ググる」と言うように、検索エンジンでは米グーグルが圧倒的なシェアを握る。調査会社のスタットカウンターによると「Bing」のシェアは世界で3%、米国でも7%弱にとどまる。米ウェドブッシュ証券のダニエル・アイブス氏は「チャットGPTとアルゴリズムの統合によりグーグルからのシェア移行をもたらす可能性がある」と指摘した。

マイクロソフトは2019年にオープンAIと提携し、子会社ギットハブによるソースコードの提案サービスや、試験公開中のデザインアプリなどにオープンAIの技術を組み込んできた。1月には今後数年にわたってオープンAIに数十億ドルを投じる計画を公表し、AIを賢くするために使うスパコンなどへの投資に振り向ける考えを示している。

ユーザーのすそ野が広い検索エンジンの基盤技術にAIを取り入れたことで、2社の協業は新たな段階に入る。発表会に参加したオープンAIのサム・アルトマンCEOは「できるだけ多くの人にAIの恩恵を届けたいから、マイクロソフトと組んでいる」と話した。

米テクノロジー大手ではグーグルも6日、対話ができるAI「Bard」を数週間以内に一般公開すると発表した。同社はこれまで技術の公開に慎重だったが、チャットGPTが社会で議論を起こしつつも受け入れられ始めたことが背中を押した。今後のテクノロジーの基盤技術となるAIをめぐり、各社の主導権争いが激しくなりそうだ。

「ChatGPT」でAIが身近に
 マイクロソフト、検索に応用

Source: Nikkei Online, 2023年2月8日 15:43

マイクロソフトのナデラCEOは「検索の新たなパラダイムが始まる」と強調した(7日、米シアトル)

人工知能(AI)が暮らしに身近になってきた。米マイクロソフトは7日、インターネットの検索エンジンに人間が書くような文章で回答する機能を組み込むと発表した。対話型のAIの技術を応用する。米グーグルも近く導入する。ネットの情報が膨大になるなか、必要な情報を早く得られるようにすることを目指す。正確性や差別的な情報の拡散には課題も残る。

「ネット検索に再びイノベーションを起こす」。7日に米シアトル郊外の本社で開いた発表会で、マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)はこう胸を張った。

マイクロソフトが投資する米新興企業のオープンAIが開発した「ChatGPT(チャットGPT)」の技術を応用し、検索エンジンの「Bing」に取り入れる。日本語も含めて7日から順次利用できるようになる。知りたい内容についてこれまでと同様の検索結果とともに、人間が書くような自然な文章で回答する。

例えば、検索窓に「2泊3日の京都旅行」と日本語で打ち込むと、ウェブサイトのリンクが並ぶ検索結果の右側にAIが提案するお薦めの旅程が表示される。質問を続けると、人気の土産や京都駅限定の和菓子「八ツ橋」について説明を受けられる。京都の観光に詳しい人に話を聞いているような感覚だ。

Bingの対話型AIの実例

対話型AIの導入で利用者の検索は大きく2つの点で変わる。一つは知りたい情報を得るスピードだ。

現在の検索は入力したキーワードに基づいてウェブサイトの一覧が表示され、利用者がクリックと閲覧を繰り返して知りたい情報にたどり着く。必ずしも望む情報を早く得られるとは限らない。新たな検索では検索結果の表示だけでなく、質問に合った回答まで素早くたどり着くことができる。

知りたい情報を目的地にした地図に例えると、対話型AIは「ナビゲーター」の役割を担う。目的地までの様々な経路を瞬時に処理し、利用者を最短経路で目的地に導くイメージだ。

AIは人間の質問の意図を的確に理解して回答する能力を得つつある。AIの「頭脳」はネットの膨大なデータを学習し、利用者は会話するように欲しい情報を整理された形で手に入れられるようになる。

情報の探索範囲も広がる。辞書を調べるように定義や答えが明確なものだけでなく、「気候変動を解決するにはどうすればよいか」といった複雑な質問にも回答する。内容が完璧ではなくても解決策などを考えるうえでのヒントが得られる。

検索エンジンはグーグルが世界シェアの9割を持つ。マイクロソフトは3%に過ぎない。AIを組み合わせて検索という利用者に最も身近な「体験」をつくり変えることでグーグルに対抗する狙いがある。

マイクロソフトの攻勢にグーグルの危機感は強い。グーグルのスンダー・ピチャイCEOは6日、自社開発の対話型AI「Bard」を数週間以内に公開すると明らかにした。サイバー攻撃などに悪用される懸念から一般向けの事業に広く活用することに慎重だったが、検索エンジンにも最新の技術を搭載する。

グーグルのスンダー・ピチャイCEO

グーグルはマイクロソフト陣営に遜色のない高度な技術を持つ。高い言語能力をもつAIの技術開発を主導してきたのはグーグルだ。開発を進めてきた対話型AIはあたかも人間のように言葉を操る。チャットGPTもグーグルが17年に発表した技術を土台にして生み出された。

AIには懸念や課題も多い。AIが不正確な回答をしたり、差別的な情報を生み出したりする懸念がある。

米調査会社ユーラシア・グループは23年の世界の「10大リスク」の3番目にAIをあげた。偽情報やフェイク画像を大量に生み、混乱を招く恐れがあるためだ。米メタが22年に公開した物理や化学など科学的な疑問に答えるAIは虚偽の内容などを作り出して批判を浴び、数日で公開をやめた。倫理的な問題に対処し、適切な形で市場を育てる必要がある。(シアトル=佐藤浩実、AI量子エディター 生川暁)


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