Source: Nikkei Online, 2023年4月21日 5:00
受け入れか、排除か。優れた対話能力をもつ人工知能(AI)「ChatGPT(チャットGPT)」などの扱いを巡り、学びの場が揺れている。
「教育現場におけるAI活用のフェーズが変わった」。3月下旬、チャットGPTを含むAIの活用指針を公表した東京外国語大の青山亨理事は語る。従来のAI活用は機械翻訳のように「言語を学ぶ補助」の枠内にとどまっていた。
自然な文章で高度な質問に答えるチャットGPTが教育現場で普及すれば、言語を学ぶ意義自体が問われかねない。それでも東京外大は「テクノロジーの進化は止められない」(青山理事)と、授業での活用ルールを教員と学生で定めるよう促した。
東京大も4月、AIだけを使った論文作成は認めないが活用法の議論を始める方針を示した。上智大は教員が許可した場合を除き、リポートや論文を書く際に使うことを禁止した。
世界でも対応は割れる。米ニューヨーク市は学校での使用を禁止した。一方でシンガポールのチャン・チュンシン教育相は「受け入れることを指導しなければならない」と容認する。
これからは幼少期からAIが身近な「AIネーティブ」が社会を担う。「既に答えがある問題」はAIで対処できる。知識の暗記と再生のうまさを評価する教育は意味をなさなくなる。
高校教諭出身でAIを使った教育に詳しい佐藤俊一・元山形大教授は「疑問を持つことは人間にしかできない。課題を見つけて問いを立て、定まった正解がない中で最適解を模索する『探究型』学習への転換が急務だ」と訴える。
AIを使いこなすには人も能力を高め続けなければならない。世界ではチャットGPTを高度な作業に利用する技能「プロンプトエンジニアリング」を習得する動きが拡大し、国内のビジネス現場でも体制づくりが猛スピードで進む。
生活関連サービスを手がけるくふうカンパニーもその一つで、4月に入社した社員約20人にまず教えたのはAIを使う際の基礎的素養や注意点だった。約1週間の準備期間を経てチャットGPTを活用した新事業案の発表会も開いた。
同社の目標は今の世にない画期的なサービスの創出だ。そのためにはAIからアイデアを引き出し、新たな価値を生み出す社員を育てる必要がある。急速な環境変化に対応するため、カカクコムやクックパッドの経営に携わってきた穐田誉輝最高経営責任者(CEO)は新卒社員に「(AIの力を)自ら感じ、使いこなしてほしい」と呼びかける。
AIによる研究が進む囲碁でも人間同士の勝敗を分けるのは思考力となる。
史上最年少の13歳11カ月でタイトルを獲得した仲邑菫女流棋聖は「AIが示す手だけ打っていても失敗する。自分の棋風に合った手を打つのが一番大切だ」と語り、国内第一人者の井山裕太王座も「AIをどう自分なりの手に落とし込むかが大事」と強調する。
AIが進化するなかで人が学ぶべきことは何か。答えを見いだしたとき、人づくりの未来が開く。
=おわり