Source: Nikkei Online, 2023年10月12日 19:57
半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、日本国内で回路線幅6ナノ(ナノは10億分の1)メートルの国内最先端の半導体製造を計画していることがわかった。建設を検討中の熊本第2工場で製造する。総投資額はおよそ2兆円で、経済産業省が最大9000億円ほどの資金支援を検討する。
政府はTSMCの新工場を含めた半導体支援策を月内にもまとめる経済対策に盛り込む。経産省は2023年度の補正予算案に合計で3兆3550億円を要求した。半導体を支援するための「ポスト5G基金」や「先端半導体基金」などに積み増す。今後財務省と協議し、最終的な金額を固める。
半導体は回路線幅が微細になるほど性能が上がる。いま日本で生産できるのは40ナノメートル台まで。先端品は今後、5Gや人工知能(AI)向けに世界的な需要が高まると予想される。
TSMCは22年4月から熊本で半導体の第1工場を建設している。先端品を製造する第2工場は24年夏をめどに着工し、27年に量産を始める見通しだ。月に6万枚程度の量産を目指す。回路線幅が6ナノメートルや12ナノメートルの演算用のロジック半導体の量産を見込んでおり、ソニーグループなどに販売する計画だ。
総額1.2兆円ほどの投資を見込む第1工場では回路線幅12〜28ナノメートルの半導体を量産する。新たな第2工場は投資規模や製品の性能が第1工場を上回る。TSMCは台湾で3ナノ品の量産をすでに始めており、第2工場が稼働すれば日本での6ナノ品の量産が確実となる。
第2工場が稼働すれば、第1工場とあわせて37年には法人税や固定資産税などによる税収が支給した補助金額を上回るとみられる。第2工場の稼働に伴い、関連の台湾企業が新たに日本に進出する目算もある。
経産省はTSMC向けとは別に補正予算案で、27年に最先端半導体の国内量産を目指すラピダス向けに追加で5900億円を求める。量産に向けた試作ラインの設備投資などに充てる。ラピダスにはこれまで3300億円を支援してきた。
米インテルには半導体の組み立て・加工といった「後工程」の研究開発向けに500億円の補助を見込む。インテルは日本の半導体材料メーカーなどと組み、先端品の組み立てを自動化する技術の開発を進める計画だ。
ソニーグループには3100億円の支援を予定する。ソニーは米アップルのiPhone向けに画像センサーを供給する。世界的に需要が高まるなか、さらなる増産を促す。日本に初進出する台湾の半導体受託大手、力晶積成電子製造(PSMC)の設備投資にも1400億円を充てる計画だ。
車載用やAI向け半導体の回路の設計研究にも1000億円程度を見込む。日本はこれまで半導体の設計が弱かった。高度人材の育成にも100億円を投じる計画だ。
日本政府はこれまで2年で2兆円超を用意し、投資支援を進めてきた。さらなる予算を求めるのは、欧米でも年末から支援が始まることが背景にある。米国はおよそ8兆円、欧州は6兆円程度の予算を準備する。
すでにTSMCやインテルは欧州の補助金を当て込み、ドイツなどで新たな生産計画を発表している。日本も同規模の予算を維持することで、国内に投資を呼び込む。