NTT固定電話をIP網に移行
 100年以上続いた仕組み一変

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Source: Nikkei Online, 2024年2月9日 5:00


NTT東日本とNTT西日本(NTT東西)は2024年1月31日、固定電話サービス用のネットワークをIP(インターネットプロトコル)網に全て移行したと発表した。「03(東京23区)」などの「0AB〜J番号」と呼ばれる電話番号を使う固定電話サービスにおいて、IP技術を応用して提供する仕組みに切り替えた。

従来の固定電話サービスのネットワークは公衆交換電話網(PSTN)と呼ばれ、電話交換機が発信側と着信側の間に1本の回線を割り当てることで通話を実現していた。今回の切り替えによって、NTT東西が「変換装置」と呼ぶ機器で音声をIPパケットに変換し、IP網で中継して通話する仕組みとなった。100年以上続いてきた日本の固定電話の仕組みが一変したことになる。

電話の音声を中継する仕組みを回線交換からIPに切り替えた
(出所:NTT東日本の資料などを基に日経クロステック作成)

1000万強の回線をIP網に移行

「20時の切り替えに向けてよろしくお願いします」

1月30日午後7時15分、NTT東日本本社に設置された「PSTNマイグレーション切替本部」で、NTT東日本の島雄策取締役執行役員ネットワーク事業推進本部長がこう宣言した。同社が固定電話サービス向けに運用する関東甲信越地方や北海道の固定電話網の切り替え作業にゴーサインを出した。

各地の技術者に移行作業の実施を宣言する
NTT東日本の島雄策取締役執行役員ネットワーク事業推進本部長(右から2番目)(撮影:日経クロステック)

切り替え作業は1月30日午後8時〜31日未明にかけて、NTT東西の合計で数百人規模の態勢で実施した。1日で切り替え対象となる回線の数は1000万以上に相当する。これほど規模が大きい移行作業は、NTT東西も初めての経験である。

NTT東日本ではまず、北海道や新潟県、長野県などのサービス向けに運用する約100台の交換機の切り替え作業を30日午後8時に実施した。その後も段階的に切り替えを進め、最終的に300台余りを無事に移行させた。

NTT東日本の島氏は、円滑に移行するために様々な準備を進めてきたと明かす。例えば、他の通信事業者の網と接続する試験は検証環境ではなく、実際のサービスと同じ商用環境で実施した。本番と同じ環境での作業を経験しておいたことにより、切り替え作業の品質が向上したとしている。

一部の地域は1月中旬までに先行して移行作業を済ませていた。具体的には、NTT東日本の東北地域、NTT西日本の中四国地域である。これらの地域で作業して大きな問題なく移行できたことも、今回の移行作業を円滑に進める後押しになったと見られる。

IP技術への移行でサービスの安定提供が可能に

固定電話網をIPベースに移行した意義について、NTT東日本の島氏は「社会インフラである固定電話サービスを今後も安定的に提供する上で欠かせなかった」と説明する。NTT東西は交換機設備の部品の不足などが原因で、PSTNを維持するのは25年が限界としている。今回、ルーターなどIP技術をベースとするネットワークに切り替えたことで、設備面、人的資源面ともに固定電話サービスの継続性を高められた。

IP網への切り替えは、NTT東西の経営面にとってもプラスの効果が見込める。というのもNTT東西は「ユニバーサルサービス」として固定電話サービスの提供義務が課せられており、長年赤字が続き経営面では負担となっている。IP化によって今後は光ファイバー回線を使う電話サービスの「ひかり電話」と中継網の仕組みを共通化できるようになり、「コスト効率を高められる」(NTT東日本の島氏)。赤字の規模を抑える余地ができるわけだ。

NTT東西は今回、IP化と同時に固定電話サービスの通話料金を全国一律3分9.35円に改めた。従来は通話相手との距離に応じた課金体系であり、県間通話は提供していなかった。今回の料金の見直しが利用の促進につながってほしいとNTT東日本の島氏は期待する。

固定電話サービスの通話料金を全国一律に切り替えた
(出所:NTT東日本、NTT西日本の資料を基に日経クロステック作成)

今回の移行で交換機の利用が完全に停止したわけではない。例えば「0120」から始まる着信者課金などの一部サービスは、25年までPSTN経由での提供が続くという。それでも、電話網の移行という10年越しの大プロジェクトが大きな山を越えたのは間違いない。

(日経クロステック/日経NETWORK 島津忠承)


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